集合は数学の基礎で,ほとんどの数学の基礎は集合にある大切な概念です.
しかし,高校数学の中で集合をハッキリと意識することはそれほどないと思いますし,大学で専門的に数学をする場合以外でそこまで意識しなくてもそれほど問題はない場合が多いのも事実です.
しかし,高校数学でも「場合の数」や「確率」などの分野で積極的に集合を扱う場面もあるため,集合の扱いには慣れておく必要があります.
この記事では,集合の基礎知識を整理します.
一連の記事はこちら
【論理と集合1|「集合」は数学の共通語!集合の基礎知識】←今の記事
【論理と集合2|補集合の計算は「ド・モルガンの法則」】
【論理と集合3|「必要条件」「十分条件」は論理のド基本】
【論理と集合4|命題を集合を使って考える超便利な方法】
【論理と集合5|対偶はどういう時に使う?対偶の性質】
集合の基礎知識
まずは集合の基礎を説明しましょう.
集合の定義
高校数学では以下のように定義します.
数学的な対象の集まりを集合という.
たとえば,
- 1以上10以下の整数の集合
- 1以上10以下の実数の集合
- 自然数全部の集合
など集合には様々なものが考えられます.
ただ,この高校数学の定義は厳密な定義ではなく,厳密に集合を定義するには「公理的集合論」を学ぶ必要があります.
とはいえ,そこまで厳密に集合を定義していなくても,高校の範囲で困ることはまずあり得ませんから,集合とは「数などの数学的なモノの集まり」とざっくり思っていて大丈夫です.
集合の表し方
次に,集合の表し方を説明します.
集合を構成する1つ1つの対象を要素(または元)という.
たとえば,「6の正の約数の集合」を$A$とするとき,
- 1
- 2
- 3
- 6
はいずれも$A$の要素です.
集合の表し方1
集合は中括弧$\{\qquad\}$で要素を括ることで表すことができます.たとえば,
- 「1と3と5と7を要素とする集合」は$\{1,3,5,7\}$
- 「12の正の約数全部の集合」は$\{1,2,3,4,6,12\}$
- 「正の偶数全部の集合」は$\{2,4,6,8,10,\dots\}$
- 「整数全部の集合」は$\{\dots,-2,-1,0,1,2,\dots\}$
などと表します(このように,要素を書き並べて表す方法を「内包的記法」といいます).
集合の表し方2
また,12の約数全部の集合$\{1,2,3,4,6,12\}$は
$\{x|x$は12の約数$\}$
と表すこともできます.これはどういう表し方かというと,前の
の部分で,まず「この集合は$x$全部の集合である」と宣言し,後ろの
$|x$は12の約数$\}$
の部分で,「$x$は12の約数である」と宣言しています.併せて,「$x$は12の約数であり,この集合は$x$全部の集合である」ということになります(このように,「要素」と「要素が満たす条件」で表す方法を「外延的記法」といいます).
たとえば,
- $\set{2n-1}{n=1,2,3,\dots}$は「正の整数$n$に対して,$2n-1$と表せるものの集合」
- $\set{2n}{n=1,2,3,\dots}$は「正の整数$n$に対して,$2n$と表せるものの集合」
という意味になります.実際に要素を書き並べると,それぞれ
- $\{1,3,5,7,9,\dots\}$ (正の奇数全部の集合)
- $\{2,4,6,8,10,\dots\}$ (偶数全部の集合)
となります.
この条件を用いて表す方法を用いると,書き並べて表すことができない集合も表すことができます.
集合の要素と部分集合
$x$が集合$A$が要素であるとき,$x\in A$と書き,$x$は$A$に属するという.また,$x$が$A$に属さないとき,$x\not\in A$と書く.
たとえば,$A=\{\dots,-6,-3,0,3,6,\dots\}$ (3の倍数の集合)とするとき,
- $3\in A$
- $6\in A$
- $-24\in A$
- $5\notin A$
などとなります.
集合$A$の要素が全て集合$B$の要素でもあるとき,$A\subset B$と書き,$A$を$B$の部分集合(または$B$は$A$を含む)という.また,$A$が$B$の部分集合でないとき,$A\not\subset B$と書く.
また,集合$A$, $B$が等しいとは,$A\subset B$かつ$B\subset A$が成り立つことをいい,$A=B$と表す.
たとえば,
- $A=\{\dots,-12,-6,0,6,12,\dots\}$ (6の倍数の集合)
- $B=\{\dots,-6,-3,0,3,6,\dots\}$ (3の倍数の集合)
とするとき,$A$の要素は全てBの要素なので,$A\subset B$となります.
また,$A\subset B$と書くと$A$がすっぽり$B$の中に入っていなければならないと思ってしまう人もいますが,それは間違いで$A=B$のときでも$A\subset B$と表します.
(※古い文献には「$\subset$は$=$の場合は含まず,$=$でもよい場合は$\subseteq$とする」と書かれていることもありますが,現代は国際的にも$\subset$は$=$の場合も含むのが標準です.)
これらの記号について,
- 集合と要素の関係を表す$\in$, $\notin$
- 集合と集合の関係を表す$\subset$, $\not\subset$
はハッキリと違う意味の記号ですから,使い分けに注意して下さい.
さまざまな集合
次に,さまざまな集合を説明します.
空集合
ここで,重要な集合である空集合を説明しておきます.
要素を1つももたない集合を空集合といい,$\emptyset$と表す.
空集合を無理矢理書くなら,$\{\quad\}$ということになります.
また,空集合について重要な点は,空集合は任意の集合の部分集合であるということに注意しましょう.
つまり,集合$A$がどんな集合であっても,$\emptyset\subset A$です.
和集合と共通部分
2つの集合から,以下のように新しい集合を定義します.
集合$A$, $B$を集合とする.「$A$, $B$の少なくとも一方に属する要素全部の集合」を$A$と$B$の和集合といい,$A\cup B$と表す.また,「$A$, $B$の両方に属する要素全部の集合」を$A$と$B$の共通部分といい,$A\cap B$と表す.
和集合$A\cup B$と$A\cap B$はそれぞれ
- $A\cup B=\{x|x\in A$または$x\in B\}$
- $A\cup B=\{x|x\in A$かつ$x\in B\}$
とも表せます.
日常では「または」は「どちらか一方」という意味で用いることが多いですが,数学では「または」は「少なくとも一方」の意味で用いることに注意してください.
ですから,数学の「または」は両方に含まれていてもOKです.
例1
集合$A=\{1,2,3,4,5\}$, $B=\{2,4,6,8\}$に対しては,
です.
例2
偶数全部の集合$C=\{2n|n=0,1,2,3,\dots\}$,奇数全部の集合$D=\{2n+1|n=0,1,2,3,\dots\}$に対しては,
です.なお,$A\cup B$の$\{n|n=0,1,2,\dots\}$は「0以上の整数全部の集合」ですね.
「どうして空集合という概念を考えるのか」と疑問に思った人もいるかもしれませんが,この例2のように共通部分の要素が存在しない場合などに空集合が自然に現われることを考えると納得できるでしょう.
補集合
最後に,補集合について説明します.
集合$U$と$U$の部分集合$A$に対して,$A$に属さない$U$の要素全部の集合を,$U$における$A$の補集合といい,$\overline{A}$と表す.また,このときの$U$を全体集合という.
すなわち,$U$における$A$の補集合は
となりますね.
補集合を考える上でで大切なことは,「どの集合の中での補集合なのか」ということです.これは常に意識しておきましょう.
たとえば,集合$A$を$A=\{1,3,5\}$とするとき,
- $U=\{0,1,2,3,4,5\}$での$A$の補集合は$\overline{A}=\{0,2,4\}$
- $U=\{1,3,5,7,9\}$での$A$の補集合は$\overline{A}=\{7,9\}$
なので,全体集合が異なれば補集合も変わってくることが分かりますね.
補集合を考えるときには全体集合を意識する.
補集合の和集合,共通部分を計算をする際には「ド・モルガンの法則」が重要です.
次の記事では,「ド・モルガンの法則」の考え方を説明します.