背理法を例題とともに解説!√2が無理数であることも証明

論理と集合
論理と集合

この記事で扱う背理法は高校数学で学ぶ重要な証明手法です.

背理法という名前を聞くと難しそうに感じるかもしれませんが,実は直感的に当たり前な考え方です.

例えば,次のような問題はどのように解けば良いでしょうか?

  1. 整数$a$に対し,$a^2$が偶数なら$a$も偶数であることを示せ.
  2. $\sqrt{2}$は無理数であることを示せ.

これを背理法を使わずに直接証明するのは面倒なのですが,背理法を用いれば比較的簡単に証明することができます.

この記事では

  • 背理法はどのような論法なのか
  • 背理法を使った証明の例

を順に説明します.

背理法はどういう論法なのか

数学とは少し離れた問題に感じるかもしれませんが,少し次の問題を考えてみましょう.

もしあなたが刑事で「犯人の取り調べ」をしていたとしましょう.しかし,「犯人」と思われる相手は嘘をついて自分の潔白を主張しています.

このとき,あなたは犯人の言っていることが嘘であることをどうやって立証しますか?

おそらくあなたは様々な証拠を集めて,犯人の発言に矛盾を見つけようとするはずです.

犯人「$X$が成り立たないことがある(嘘)」

刑事「でも,こんな証拠が出てきた.この証拠はお前の主張に矛盾する!ということは,お前の言っていることは嘘だ!」

犯人「……(バレた)」

というわけですね.

つまり,背理法で「$X$が成り立つ」ことを証明したければ

  1. 「$X$は成り立たない」と嘘の仮定をする.
  2. この仮定から何らかの矛盾を導く.
  3. 正いかどうか分からない仮定を(1)でおいたのが矛盾の原因である.
  4. 仮定が誤りなので$X$は成り立つ.

という流れになります.つまり,背理法は「わざと最初についた嘘から矛盾を導いて嘘を見破る証明方法」というわけですね.

背理法を使った証明の具体例

それでは,具体的に背理法を使った証明問題を解きましょう.

具体例1(整数$a$に対し$a^2$が偶数なら$a$も偶数)

整数$a$に対し,$a^2$が偶数なら$a$も偶数であることを示せ.

「$a$が偶数である」を証明するので,背理法の仮定(最初につく嘘)は「$a$は偶数でない」ですね.

与えられている条件(証拠)「$a^2$が偶数である」と,背理法の仮定「$a$は偶数でない」を併せて矛盾を導きましょう.

背理法により示す.すなわち,整数$a$が偶数でないと仮定する.

このとき,$a$は奇数だから$a=2n+1$($n$は整数)と表せるので

    \begin{align*}a^2=(2n+1)^2=4n^2+4n+1=2(2n^2+2n)+1\end{align*}

が成り立つ.$2n^2+2n$は整数だから$2(2n^2+2n)+1$は奇数なので,$a^2$は奇数である.

一方,$a^2$は偶数だったから,これは矛盾である.

よって,「整数$a$が偶数でない」という仮定が誤りなので$a$は偶数である.

背理法の4つのステップ

  1. 「$X$は成り立たない」と嘘の仮定をする.
  2. この仮定から何らかの矛盾を導く.
  3. 正いかどうか分からない仮定を(1)でおいたのが矛盾の原因である.
  4. 仮定が誤りなので$X$は成り立つ.

が分かったでしょうか.

具体例2($\sqrt{2}$は無理数)

$\sqrt{2}$は無理数であることを示せ.

「$\sqrt{2}$は無理数である」を証明するので,背理法の仮定は「$\sqrt{2}$は無理数でない」となりますね.

なお,有理数と無理数の定義が怪しい人はしっかり確認しておきましょう.

$x=\dfrac{p}{q}$($p$, $q$は整数,$q\neq0$)と表せる実数$x$を有理数(rational number)という.また,有理数でない実数を無理数(irrational number)という.

よって,「$\sqrt{2}$は無理数でない」という仮定は「$\sqrt{2}$は有理数である」というに他ならず,さらに有理数の定義から「$\sqrt{2}=\dfrac{p}{q}$と表せる($p$, $q$は整数)」ということになりますね.

背理法により示す.すなわち,$\sqrt{2}$は無理数でないと仮定する.

このとき,$\sqrt{2}$は有理数だから$\sqrt{2}=\dfrac{p}{q}$ ($p$, $q$は正の整数,$p,q$は同じ素因数を持たない)と表せる.

分母を払って両辺2乗すると$2q^2=p^2$が成り立つ.

左辺の$2q^2$は偶数だから,これと等しい$p^2$も偶数である.よって,例1で示したことより$p$は偶数である.

これにより,$p=2k$ ($k$は整数)と表せるから,$2q^2=p^2$に代入すると

    \begin{align*}2q^2=4k^2 \iff q^2=2k^2\end{align*}

となる.右辺の$2k^2$は偶数だから,これと等しい$q^2$は偶数なので,再び例1で示したことより$q$は偶数と分かる.

よって,$p$も$q$も偶数となったので同じ素因数2をもつが,$p$, $q$は同じ素因数を持たないとしていたので矛盾する.

以上より「$\sqrt{2}$が無理数でない」という仮定が誤りなので,$\sqrt{2}$は無理数である.

整数$p$, $q$は同じ素因数を持たないということは,$\dfrac{p}{q}$はこれ以上約分できない分数ということですね.

このように,2つの整数$p$, $q$が共通素因数を持たないことを,$p$, $q$は互いに素であるといいます.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.

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