この記事では,命題$p\Ra q$の
- 逆
- 裏
- 対偶
について説明します.これらのうちで重要なものは「対偶」です.
条件$p$, $q$の否定をそれぞれ$\overline{p}$, $\overline{q}$で表すとき,命題$\overline{q}\Ra\overline{p}$を命題$\overline{p}\Ra\overline{q}$の対偶といいます.
実は命題$\overline{q}\Ra\overline{p}$の真偽とその対偶$\overline{p}\Ra\overline{q}$の真偽は必ず一致するという性質があります.
この記事では,この対偶の性質について説明し,どのような場合に便利か説明します.
一連の記事はこちら
【論理と集合1|「集合」は数学の共通語!集合の基礎知識】
【論理と集合2|補集合の計算は「ド・モルガンの法則」】
【論理と集合3|「必要条件」「十分条件」は論理のド基本】
【論理と集合4|命題を集合を使って考える超便利な方法】
【論理と集合5|対偶はどういう時に使う?対偶の性質】←今の記事
条件の否定
準備として
- 逆
- 裏
- 対偶
の説明に入る前に,「条件の否定」ついて説明します.
$x$の条件$p$に対して,「$x$は条件$p$を満たさない」という条件を$p$の否定という.条件$p$の否定は$\overline{p}$と表すことが多い.
具体的に考えてみましょう.
次の条件を否定せよ.
- $p_1$:整数$x$は偶数である
- $p_2$:整数$x$は1以上かつ5以下である
- $p_3$:三角形Xは鋭角三角形である
(1) $x$が否定$\overline{p_1}$を満たすとは「整数$x$が偶数でない」ということなので,
$\overline{p_1}$:整数$x$は奇数である
となる.
(2) $x$が否定$\overline{p_2}$を満たすとは「整数$x$が[1以上かつ5以下]でない」ということなので,
$\overline{p_2}$:整数$x$は0以下または4以上である
となる.
(2) Xが否定$\overline{p_3}$を満たすとは「三角形Xが鋭角三角形でない」ということなので,
$\overline{p_3}$:三角形Xは直角三角形または鈍角三角形である
となる.
条件$p$の否定は「条件$p$を満たさないもの全て」とも言い換えられる.
逆,裏,対偶
それでは本題に移ります.
逆・裏・対偶の定義
条件$p$, $q$に対して
- 命題$q\Ra p$を命題$p\Ra q$の逆
- 命題$\overline{p}\Ra\overline{q}$を命題$p\Ra q$の裏
- 命題$\overline{q}\Ra\overline{p}$を命題$p\Ra q$の対偶
という.
言葉で説明すると,命題$p\Ra q$に対して
- $p$と$q$を入れ替えたものが逆
- $p$と$q$をともに否定にしたものが裏
- $p$と$q$を入れ替えてともに否定にしたものが対偶
ということになりますね.これを1つの図で表せば,下図のようになります.
この図からも分かるように,
- 逆の逆はもとの命題
- 裏の裏はもとの命題
- 対偶の対偶はもとの命題
ですね.
逆と裏の注意点
逆・裏に関して,次のことに注意してください.
もとの命題が真であっても,逆・裏は真であるとは限らない.
たとえば,
- $p$:$x$は4の倍数である
- $q$:$x$は偶数である
とすると,
- 命題$p\Ra q$は真
- 命題$q\Ra p$は偽
- 命題$\overline{p}\Ra \overline{q}$は偽
となっています.
このことは標語的に「逆(裏)は必ずしも真ならず」とよく言われるくらい大切ですから,勘違いしないように注意してください.
「もとの命題」と「対偶」の関係
さて,冒頭でも書いた通り,命題と対偶については次のような関係があります.
条件$p$, $q$に対して,命題$p\Ra q$の真偽とその対偶$\overline{q}\Ra\overline{p}$は一致する.
つまり,
- $p\Ra q$が真なら$\overline{q}\Ra\overline{p}$も真
- $p\Ra q$が偽なら$\overline{q}\Ra\overline{p}$も偽
というわけですね.
集合(ベン図)による説明
$p$, $q$を$x$に関する条件とし,$p$, $q$の真理集合をそれぞれ$P$, $Q$とします.
このとき,条件$\overline{p}$の真理集合は補集合$\overline{P}$,条件$\overline{q}$の真理集合は補集合$\overline{Q}$ですね.
[1] 命題$p\Ra q$が真であるとします.
このとき,前回の記事で説明したように包含関係$P\subset Q$を満たします.
【前回の記事:論理と集合4|命題を集合を使って考える超便利な方法】
$x$の条件$p$に対して,条件$p$をみたす$x$全部の集合を条件$p$の真理集合といいます.条件$p$, $q$のそれぞれの真理集合を$P$, $Q$とするとき,$p\Ra q$が真であることと$P\subset Q$が成り立つことは同値です.前回の記事ではこのことを丁寧に説明しました.
すなわち,これをベン図で表すと下図のようになりますね.
ただし,$U$は全体集合です.さて,
- $\overline{P}$はP(赤)の外側
- $\overline{Q}$はQ(青)の外側
ですから,$\overline{Q}\subset\overline{P}$が成り立ちます.
$\overline{p}$, $\overline{q}$を表す集合が$\overline{P}$, $\overline{Q}$でしたから,これは対偶$\overline{q}\Ra \overline{p}$が真であることに他ならりませんね.
[2] 「$p\Ra q$が偽である」とします.
命題$p\Ra q$が真であるとします.このとき,包含関係$P\subset Q$が成り立たず,ベン図で表すと下図のいずれかになりますね.
図を見れば明らかなように,どちらの場合も$\overline{Q}\not\subset\overline{P}$ですから,$\overline{q}\Ra\overline{p}$は偽と分かります.
以上の[1], [2]から,「もとの命題の真偽」と「対偶の真偽」が一致することが分かりました.
証明問題への応用
さて,今みてきた対偶の性質は次のような証明問題で有効です.
実数$x$, $y$が$x+y>0$をみたすなら,$x>0$または$y>0$であることを示せ.
$x$, $y$の条件$p$, $q$を
- $p$:実数$x$, $y$が$x+y>0$をみたす
- $q$:実数$x$, $y$が$x>0$または$y>0$をみたす
と定めると,「$p\Ra q$を示せ」ということになりますね.
しかし,これを直接示すのは少々面倒ですが,対偶の性質を用いると簡単に証明することができます.
実数$x$, $y$が$x\leqq0$かつ$y\leqq0$をみたすとき,$x+y\leqq0$をみたす.いま
- 「$x\leqq0$かつ$y\leqq0$」は「$x>0$または$y>0$」の否定
- $x+y\leqq0$は$x+y>0$の否定
なので,示すべき命題の対偶が真と分かり,示すべき命題も真であ.
元の命題の証明が難しくても,対偶は簡単に示すことができる場合もある.
次の記事では,対偶の「親戚」の証明法である背理法について説明します.
背理法を用いると「$\sqrt{2}$が無理数である」など直接証明しにくいことも証明できる場合があります.