前々回の記事では,$(a+b)^n$の展開公式である[二項定理]について説明しました.
また,前回の記事では具体的な$n$に対して$(a+b)^n$の展開を計算できる[パスカルの三角形]について説明しました.
この記事では,二項定理では2項$(a+b)^n$の展開でしたが,これが3項$(a+b+c)^n$や4項$(a+b+c+d)^n$と項が増えたときにどうなるかという公式を[多項定理]といいます.
[二項定理]が場合の数の考え方を使って導出されたのと同様に,[多項定理]も同じく場合の数を用いて導出します.
考え方も[二項定理]とほとんど同じですが,これまでに見てきた場合の数を理解できていなければ難しいでしょう.その意味で,[多項定理]を理解できるのは,これまでのものがある程度理解できている証拠でもあります.
一連の記事はこちら
【場合の数1|[和の法則]と[積の法則]は超アタリマエ!】
【場合の数2|[順列]のnPrの考え方と公式は超カンタン!】
【場合の数3|実はカンタンな円順列と数珠順列の考え方】
【場合の数4|[組み合わせ]のnCrの求め方から性質まで攻略】
【場合の数5|同じものを含むと順列の場合の数はどう変わる?】
【場合の数6|[重複組み合わせ]は2パターンでOK!】
【場合の数7|二項定理を理解しよう!場合の数を使って導出!】
【場合の数8|展開が楽にできる「パスカルの三角形」の考え方】
【場合の数9|多項定理とは?実は二項定理と同じ考え方!】←今の記事
二項定理
最初に[多項定理]がどのような定理かを説明し,後から考え方を説明します.
多項定理の内容
次の定理を[多項定理]といいます.
[多項定理] $k$個の実数(複素数)$a_1$, $a_2$,……,$a_k$と正の整数$n$に対して,$(a_1+a_2+\dots+a_k)^{n}$の$a_{1}^{n_1}a_{2}^{n_2}\dots a_{k}^{n_k}$ ($n=n_1+n_2+\dots+n_k$)の係数は
である.
最初に書いたように,[多項定理]は[二項定理]の拡張で,[多項定理]で$k=2$とすると[二項定理]となります.
実際に$k=2$の場合の[多項定理]は
「$(a+b)^n$の$a^{k}b^{\ell}$ ($n=k+\ell$)の係数が$\dfrac{n!}{k!\ell!}$である」
ということになり,$\dfrac{n!}{k!\ell!}=\Co{n}{k}(=\Co{n}{\ell})$なので確かに二項定理になっています.
【場合の数7|二項定理を理解しよう!場合の数を使って導出!】
$(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$, $(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3$のように,$(a+b)^n$を展開することはよくあります.この$(a+b)^n$の展開公式を[二項定理]といい,非常に重要な公式です.[二項定理]は場合の数の考え方を使って導出されます.
[二項定理]の場合と同様に,[多項定理]が威力を発揮するのは$n$が大きいときです.
例えば,$(a+b+c)^{6}$を実際に展開しようとすると,かなり面倒な計算をすることになりますが,たとえば[多項定理]から$(a+b+c)^{6}$の$a^2b^3c$の係数は
とすぐに分かります.他にも$a^2c^4$の係数は
と分かります.
なお,$0!=1$であることに注意してください.
[多項定理]は$(a_1+a_2+\dots+a_k)^n$の展開公式であり,[二項定理]の拡張になっている.
多項定理の考え方
[多項定理]の考え方は[二項定理]の考え方と同じです.
たとえば,$k=3$, $n=4$の場合を考えてみます.このとき,
です.ここで,
- $(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)$の太字部分をかけると$a^4$
- $(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(a+\boldsymbol{b}+c)$を太字部分をかけると$a^3b$
- $(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(a+b+\boldsymbol{c})$を太字部分をかけると$a^3c$
- $(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(a+\boldsymbol{b}+c)(\boldsymbol{a}+b+c)$を太字部分をかけると$a^2ba$
- $(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(a+\boldsymbol{b}+c)(a+\boldsymbol{b}+c)$を太字部分をかけると$a^2b^2$
- $(\boldsymbol{a}+b+c)(\boldsymbol{a}+b+c)(a+\boldsymbol{b}+c)(a+b+\boldsymbol{c})$を太字部分をかけると$a^2bc$
- ……
と全部で$3^4$項,つまり81項できることが分かります.
また,このとき掛け合わされている$a$と$b$と$c$の合計個数はいずれも4ですね.たとえば
- $a^4$は$a$が4個
- $a^2bc$は$a$が2個と$b$が1個と$c$が1個(の合計4個)
が掛け合わされていますね.
つまり,4個の$a+b+c$から$a$か$b$か$c$を選ぶことによって,全ての項が表せるわけですね.
したがって,例えば$a^3b$を作りたければ,4個の$(a+b+c)$のうちから3個で$a$を取り出し,1個で$b$を取り出せばよく,この場合の数は3個の$a$と1個の$b$(と0個の$c$)を並べる場合の数に等しいから
となります.
これを全ての項で同様に考えることで,$(a+b+c)^4$の$a^{\ell}+b^{m}+c^{n}$ ($\ell+m+n=4$)の係数が
となることが分かります.
多項定理の証明
「多項定理の考え方」と同様に,[多項定理]を証明することができます.
$(a_1+a_2+\dots+a_k)^n$を展開すると,$a_1^{n_1}a_2^{n_2}\dots a_k^{n_k}$ ($n_1+n_2+\dots+n_k=n$)の項によって表される.
である.
$a_1^{n_1}a_2^{n_2}\dots a_k^{n_k}$ ($n_1+n_2+\dots+n_k=n$)の係数を考える.
$(a_1+a_2+\dots+a_k)^n$の$n$個の$a_1+a_2+\dots+a_k$のうちから,$a_1$を取り出す$n_1$個を選び,$a_2$を取り出す$n_2$個を選び,……,$a_{k}$を取り出す$n_{k}$個を選ぶ場合の数だけ$a_1^{n_1}a_2^{n_2}\dots a_k^{n_k}$が出てくることになる.
この場合の数は,$n_1$個の$a_1$, $n_2$個の$a_2$,……,$n_{k}$個の$a_{k}$を並べる場合の数に等しい.これは「同じものを含む順列」である.
よって,$(a_1+a_2+\dots+a_k)^n$を展開すれば$a_1^{n_1}a_2^{n_2}\dots a_k^{n_k}$の係数は$\dfrac{n!}{n_1!n_2!\dots n_k!}$である.
同じものを含む順列については以下の記事を参考にしてください.
ABCDEFの6文字を並べる順列の場合の数は$6!$通りで計算できますが,AAAABBのように同じ文字が複数ある場合には$6!$通りではありません.このように,同じものを含む順列は,単なる階乗では求めることができないことに注意してください.
[二項定理]も[多項定理]も,考え方をから重要な展開公式なのでしっかりフォローしてください.
係数$\dfrac{n!}{n_1!n_2!\dots n_k!}$は$n$個の$a_1+a_2+\dots+a_k$のうち,どの$n_1$個から$a_1$を取り出し,どの$n_2$個から$a_2$を取り出し,……,どの$n_k$個から$a_k$を取り出すかという場合の数を表している.