場合の数9
(a+b+c)ⁿの展開は多項定理!考え方と具体例

場合の数と確率
場合の数と確率

前々回の記事では$(a+b)^n$の展開公式である二項定理を説明しました.

二項定理は二項$a+b$に関する展開公式でしたが,これが$(a+b+c)^n$や$(a+b+c+d)^n$と項が増えたときの展開公式を多項定理といいます.

このため,多項定理は二項定理の拡張ということができます.

二項定理が場合の数の考え方を使って導出されたのと同様に,多項定理も同じく場合の数を用いて導出することができます.

この記事では

  • 二項定理の考え方の復習
  • 多項定理

を順に説明します.

二項定理の考え方の復習

前々回の記事の最後に二項定理の重複順列による導出を説明しました.

そもそも$(a+b)^n$は

    \begin{align*}(a+b)^n=(a+b)(a+b)\dots(a+b)\end{align*}

と$n$個の$(a+b)$の積のことから,これを展開すると各$(a+b)$から$a$または$b$のいずれかを選んでかけていくことになりますね.

例えば,$n=4$のときは

  • $(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)$の太字部分をかけて$a^4$
  • $(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(a+\boldsymbol{\color{magenta}b})$を太字部分をかけて$a^3b$
  • $(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(a+\boldsymbol{\color{magenta}b})(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)$を太字部分をかけて$a^3b$
  • $(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(a+\boldsymbol{\color{magenta}b})(a+\boldsymbol{\color{magenta}b})$を太字部分をかけて$a^2b^2$
  • ……

ができあがるわけですね.

そこで,例えば

    \begin{align*}(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)(a+\boldsymbol{\color{magenta}b})(\boldsymbol{\color{magenta}a}+b)\end{align*}

の太字部分をかけるとき,このことを$aaba$と各$(a+b)$から$a$, $b$を取り出す順に並べて表すと,これは3つの$a$と1つの$b$による重複順列になっていますね.

同じものを含む順列(重複順列)の2つの考え方・求め方
「3枚のカード[A]と2枚のカード[B]を並べる」というように,いくつか同じものを含む順列を「重複順列」といいます.この記事では重複順列の求め方を2つの考え方から説明しています.

よって,$(a+b)^4$の展開での$a^3b$の係数は,4つの$(a+b)$から$a$を3つ,$b$を1つ並べる場合の数に等しいので,$\dfrac{4!}{3!1!}=\Co{4}{1}$となるわけですね.

これを全ての$a^kb^\ell$に対して考えれば,

    \begin{align*}(a+b)^4=\Co{4}{0}a^4+\Co{4}{1}a^3b+\Co{4}{2}a^2b^2+\Co{4}{3}ab^3+\Co{4}{4}b^4\end{align*}

となるわけですね.

多項定理

$(a_1+a_2+\dots+a_r)^{n}$の展開公式である多項定理は以下の通りです.

$r$個の実数$a_1$, $a_2$,……,$a_r$と正の整数$n$に対して,$(a_1+a_2+\dots+a_r)^{n}$の$a_{1}^{n_1}a_{2}^{n_2}\dots a_{r}^{n_r}$ ($n=n_1+n_2+\dots+n_k$)の係数は

    \begin{align*}\frac{n!}{n_{1}!n_{2}!\dots n_{r}!}\end{align*}

である.

多項定理の証明

いまの二項定理の重複順列による考え方と同様に多項定理を証明することができます.

$(a_1+a_2+\dots+a_r)^n$は

    \begin{align*}(a_1+a_2+\dots+a_r)^n=(a_1+a_2+\dots+a_r)(a_1+a_2+\dots+a_r)\dots(a_1+a_2+\dots+a_r)\end{align*}

と$n$個の$(a_1+a_2+\dots+a_r)$の積である.

この展開における$a_1^{n_1}a_2^{n_2}\dots a_r^{n_r}$ ($n_1+n_2+\dots+n_r=n$)の係数は,$a_1$を$n_1$個,$a_2$を$n_2$個,……,$a_r$を$n_r$個並べる場合の数に等しい.

これは重複順列で場合の数は$\dfrac{n!}{n_1!n_2!\dots n_r!}$であるから,

$a_1^{n_1}a_2^{n_2}\dots a_r^{n_r}$の係数は$\dfrac{n!}{n_1!n_2!\dots n_r!}$である.

多項定理の具体例

具体的に多項定理から次の問題を解いてみましょう.

次の問いに答えよ.

  1. $(a+b+c)^{6}$を展開したときの$a^2b^3c$の係数を求めよ.
  2. $\bra{a+2+\frac{1}{a}}^{4}$を展開したときの$a^2$の係数を求めよ.

(1) 多項定理より

    \begin{align*}\dfrac{6!}{2!3!1!}=60\end{align*}

である.

(2) $\bra{a+2+\frac{1}{a}}^{4}$を展開したときの一般項は

    \begin{align*}a^k\cdot2^\ell\cdot\dfrac{1}{a^m}=2^\ell a^{k-m}\end{align*}

である$(k+\ell+m=4)$.

いまは$a^2$の係数を問われているので$k-m=2$となる場合を考えればよく,$k+\ell+m=4$と併せると$(k,\ell,m)=(2,2,0),(3,0,1)$である.

よって,多項定理より$(k,\ell,m)=(2,2,0)$のときの項は

    \begin{align*}\dfrac{4!}{2!2!0!}\cdot 2^2 a^{2-0}=24a^2\end{align*}

であり,$(k,\ell,m)=(3,0,1)$のときの係数は

    \begin{align*}\dfrac{4!}{3!0!1!}\cdot 2^0 a^{3-1}=8a^2\end{align*}

なので,$\bra{a+2+\frac{1}{a}}^{4}$を展開したときの$a^2$の係数は$24+8=32$である.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.

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