「場合の数」は,「計算して出た答えが正しいのか分からない」という意見が少なくありません.
しかし,私はその意見には共感できません.
というのは,他の分野であっても,計算して出た答えが正しいのか分からないことはよくありますし,大切なことは計算が正しいかどうかよりも正しく考えられていることだからです.
高校数学での「場合の数」は「樹形図」を書いて数え上げれば原理的には答えが得られます.
しかし,公式を学んでいくと「場合の数は数え上げ」の原理を忘れてしまい,「色々公式があってどれを使えばいいのか分からない」と悩んでしまう人が多くいます.
本来「数え上げるために公式を使う」べきところで,「先に何かの公式を使おうとする」のはまさに本末転倒です.
「高校生がどの公式を使おうか苦心している間に,小学生が樹形図を描いてアッサリ解いてしまった」という笑っていいのか分からない話もあります.
公式はあくまで「ちょっと楽をするため」に使うだけで,「場合の数は数え上げ」の原理は常に意識しておきましょう.
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【場合の数1|[和の法則]と[積の法則]は超アタリマエ!】←今の記事
【場合の数2|[順列]のnPrの考え方と公式は超カンタン!】
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【場合の数7|二項定理を理解しよう!場合の数を使って導出!】
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【場合の数9|多項定理とは?実は二項定理と同じ考え方!】
樹形図
下図のように道で繋がった町A〜Dがあり,Aから出発してAに戻る旅行プランを考えます.
一度訪れた町には戻らないとすると,旅行プランは次のように書き上げることができます.
このように,全ての場合を線で繋いで書き出した図を樹形図といいます.この樹形図により,旅行の行程は全部で9通り考えられることが分かります.
このように,「ありうる状況をもれなく重複なく数え上げた数」を「場合の数」といいます.
場合の数を考えるときには,樹形図を書いて求めるのが最も基本的です.
場合の数の原則は「数え上げ」であり,そのために最も基本的な考え方は「樹形図」である.
和の法則
場合の数が少ないときには,樹形図を用いて考えるのが最も分かりやすく簡単です.しかし,場合の数が多くなれば,樹形図だけで処理することは難しくなってきます.
そこで,場合の数を求めるための基本的な公式として,まずは「和の法則」を解説します.
和の法則
次の公式を「和の法則」といいます.
[和の法則] 事象Aの場合の数を$a$通り,事象Bの場合の数を$b$通りとする.また,事象Aと事象Bは同時に起こらないとする.このとき,事象Aと事象Bのいずれかが起こる場合の数は$(a+b)$通りである.
AもBも同時に起こらなければ,事象Aの$a$通りと事象Bの$b$通りはいずれも重複しません.これを図で表すと,
となりますね.
このことから,事象Aと事象Bのいずれかが起こる場合の数は$a+b$通りであることが分かりますね.
和の法則の例
次の問題を[樹形図による解答]と[和の法則による解答]で考えます.
2個のサイコロX,Yをふって,出た目の和が3または6となる場合の数を求めよ.
樹形図による解答
出た目の和が3または6になる場合を樹形図で書き上げると,以下のようになる.
よって,全部で7通りである.
まずXの出目を1つずつ固定して,対応するYの出目を全て書き上げています.
このように,樹形図による解法では,1つずつ固定して対応するものを書き上げると,もれなく重複なく数え上げることができます.
和の法則による解答
「出目の和が3である事象」と「出目の和が6である事象」は同時に起こり得ないから,[和の法則]より
- 和が3の場合の数
- 和が6の場合の数
を足し合わせれば,求める場合の数が得られる.
- 和が3となるのは,$(X,Y)=(1,2),(2,1)$の2通り
- 和が6となるのは,$(X,Y)=(1,5),(2,4),(3,3),(4,2),(5,1)$の5通り
だから,求める場合の数は7通りである.
この問題では,樹形図を描いてもそれほど煩雑ではありませんが,もっと複雑で場合の数が多くなってくると,樹形図で表すのが難しくなるのは分かりますね.
そのような場合に[和の法則]がとても効果的にはたらくようになります.
[和の法則]は事象Aと事象Bが同時に起こり得ない場合に用いることができる.このとき,「事象Aと事象Bのどちらかが起こる場合の数」は,「事象Aの場合の数」と「事象Bの場合の数」の和で求められる.
積の法則
[和の法則]の他に,数え上げで場合の数を求めるのが困難な時に用いる基本的な公式として,[積の法則]を紹介します.
積の法則
次の公式を[積の法則]といいます.
[積の法則] 事象Aの場合の数を$a$通り,事象Bの場合の数を$b$通りとする.事象Aの$a$通りの全ての場合に対して,事象Bが起こりうるとする.このとき,AとBがともに起こる場合の数は$ab$通りである.
「事象Aのそれぞれの場合に対して,事象Bが起こる」ということを樹形図で描くと
となりますね.
この樹形図から,事象Aと事象Bがともに起こる場合の数は$ab$となります.
積の法則の例
次の問題を考えます.
町P,町Q,町Rを考える.町Pと町Qは3本の道で繋がれており,町Qと町Rは4本の道で繋がれているとする.このとき,町Pから町Qを通って,町Rへ行く道の選ぶ場合の数を求めよ.
町Pと町Qを繋ぐ3本の道のどれを選んでも,町Qと町Rを繋ぐ4本の道を選べるから,[積の法則]より
となって,求める場合の数は12通りですね.
考え方としては
- 町Pと町Qを繋ぐ3本の道を$A_1$, $A_2$, $A_3$
- 町Qと町Rを繋ぐ4本の道を$B_1$, $B_2$, $B_3$, $B_4$
として,以下の樹形図を考えていることになります.
ですから,[積の法則]は樹形図を使って解いているのとなんら変わりません.
ただ,数が膨大になってくると全てを書き出すのがほとんど不可能になりますから,[積の法則]によって説明しているだけです.
[積の法則]はあくまで樹形図が根底にあるわけですね.
[積の法則]は事象Aの全ての場合に対して,事象Bが起こる場合に用いることができる.このとき,「事象Aと事象Bが同時に起こる場合の数」は「事象Aの場合の数」と「事象Bの場合の数」の和で求められる.
【次の記事:場合の数2|[順列]のnPrの考え方と公式は超カンタン!】
「$n$個のものから$r$個選んで並べる場合の数」を$\Pe{n}{r}$で表します.このように,ものを一列に並べる場合を「順列」といいます.$\Pe{n}{r}$は「書き並べて表す方法」と「階乗を使って表す方法」の2通りがあります.