前回の記事で説明した三角関数の加法定理から得られる重要な公式として,
- 2倍角の公式
- 3倍角の公式
- 半角の公式
- 積和の公式
- 和積の公式
があります.
これらの公式は加法定理から導かれるものの,よく用いることになるので当たり前にしておきましょう.
この記事では,加法定理から導かれる以上の5種類の公式をまとめます.
「三角関数」の一連の記事
2倍角の公式と3倍角の公式
$(\alpha+\beta)$型の加法定理
を用いることで,2倍角の公式と3倍角の公式が得られます.
2倍角の公式
$(\alpha+\beta)$型の加法定理で$\alpha=\theta$, $\beta=\theta$とおくと,2倍角の公式が得られます.
[2倍角の公式] 実数$\theta$に対して
が成り立つ.
$\cos{2\theta}$は上の形に加えて,他に次の2種類の表し方もよく用いるので当たり前にしておきましょう.
[$\cos$の2倍角の公式] 実数$\theta$に対して
が成り立つ.
$\sin^2{\theta}+\cos^2{\theta}=1$を用いて,$\cos{2\theta}=\cos^2{\theta}-\sin^2{\theta}$の$\cos^2{\theta}$を$\sin^2{\theta}$に変換すると,
となる.一方,$\sin^2{\theta}$を$\cos^2{\theta}$に変換すると,
となる.
証明を見れば分かるように,$\sin$と$\cos$の基本関係式$\sin^2{\theta}+\cos^2{\theta}=1$を用いて,$\cos$のみの式,$\sin$のみの式に変形しているだけですね.
3倍角の公式
$\sin$と$\cos$の$(\alpha+\beta)$型の加法定理で$\alpha=\theta$, $\beta=2\theta$とおいて,上の2倍角の公式を用いると3倍角の公式が得られます.
[3倍角の公式] 実数$\theta$に対して
が成り立つ.
加法定理$\sin{(\alpha+\beta)}=\sin{\alpha}\cos{\alpha}+\sin{\beta}\cos{\beta}$で$\alpha=\theta$, $\beta=2\theta$とおいて,2倍角の公式を用いると
が成り立つ.
同様に,加法定理$\cos{(\alpha+\beta)}=\cos{\alpha}\cos{\alpha}-\sin{\beta}\sin{\beta}$で$\alpha=\theta$, $\beta=2\theta$とおいて,2倍角の公式を用いると
が成り立つ.
あまり登場する機会は少ないため敢えて書きませんでしたが,$\tan$の3倍角の公式も同様にして得られます.結果は
となるので,興味のある方は是非計算してみてください.
半角の公式
半角の公式は$\cos$の2倍角の公式から得られます.
[半角の公式] 実数$\theta$に対して
が成り立つ.
$\cos$の2倍角の公式
を変形すると
となる.ここで$\theta$を$\dfrac{\theta}{2}$に置き換えれば
が成り立つ.
証明を見れば分かるように,半角の公式は$\cos$の2倍角の公式と同値です.そのため,テキストによっては「半角の公式」と言わずに「$\cos$の二倍角の公式」と言っていることもあります.
積和の公式と和積の公式
三角関数の加法定理を足したり引いたりすることにより,積和の公式と和積の公式が得られます.
積和の公式
$\sin{\alpha}\sin{\beta}$のような$\sin$と$\cos$の積は,$\sin$と$\cos$の和や差に書き直すことができ,この公式を三角関数の積和の公式といいます.
[積和の公式] 実数$\alpha$, $\beta$に対して
が成り立つ.
和英辞書は和→英の辞書,英和辞書は英→和の辞書であるように,積和の公式は英→和の変換公式ですね.
(1)$\cos$の$(\alpha-\beta)$の加法定理と$(\alpha+\beta)$の加法定理で辺々足すと
となり,両辺を$2$で割って1つ目の積和の公式
が得られる.
(2)$\cos$の$(\alpha-\beta)$の加法定理と$(\alpha+\beta)$の加法定理で辺々引くと
となり,両辺を$2$で割って2つ目の積和の公式
が得られる.
(3)(4)同様に$\sin$の$(\alpha+\beta)$の加法定理と$(\alpha-\beta)$の加法定理で
- 辺々足して両辺$2$で割ると3つ目の積和の公式
- 辺々引いて両辺$2$で割ると4つ目の積和の公式
が得られる.
いずれも加法定理の足し引きで得られることを知っていれば,積和の公式は直ぐに導くことができるので,わざわざ覚える必要はないですね.
3つ目の公式と4つ目の公式は練習としてぜひ導出してみてください.
和積の公式
積和の公式とは逆に$\cos{B}-\cos{A}$のような$\sin$と$\cos$の和や差を,$\sin$と$\cos$の積に書き直すことができ,この公式を三角関数の和積の公式といいます.
[和積の公式] 実数$A$, $B$に対して
が成り立つ.
この和積の公式は先ほどの積和の公式からすぐに導くことができます.上の積和の公式で
とおくと,
が成り立つので,積和の公式の$\alpha$, $\beta$を$A$, $B$に書き直せば,和積の公式が得られますね.
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