前回の記事で三角関数の加法定理について説明しました.
さて,三角関数の加法定理を用いることで,$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$の形の式は
- $C\sin{(\theta+\alpha)}$
- $C\cos{(\theta-\alpha)}$
のように,1つの三角関数にまとめて表すことができます.
このように,$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$の形の式を1つの三角関数をまとめて表すことを[三角関数の合成]といいます.
多くの人は「三角関数の合成」と聞くと,$C\sin{(\theta+\alpha)}$と$\sin$でまとめる方を思い浮かべますが,$C\cos{(\theta+\alpha)}$でまとめないと解けない問題もありますから,両方ともできるようになってください.
といっても,考え方はどちらも同じなので,単に丸覚えするのではなく考え方から身に付けてください.
一連の記事はこちら
【三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】
【三角関数2|偏角の変換公式は覚えるな!簡単に導く方法!】
【三角関数3|「ラジアン」の考え方,公式はシンプル!】
【三角関数4|有名角の三角関数は覚えるな!図で判断するコツ】
【三角関数5|三角関数のグラフは縦や横から見るべし!】
【三角関数6|三角関数の方程式や不等式は,点をグルグル回せ!】
【三角関数7|三角関数の加法定理の周辺を総まとめ】
【三角関数8|Asinθ+Bcosθの形は三角関数の合成!】←今の記事
目次
三角関数の合成
最初に[三角関数の合成]の公式を説明し,続いて考え方を説明します.
公式
以下の式変形を[三角関数の合成]といいます.
[三角関数の合成] 任意の実数$A$, $B$, $\theta$に対して,次が成り立つ.
ただし,$C=\sqrt{A^2+B^2}$であり,$\alpha$は$0\le\alpha<2\pi$, $\sin{\alpha}=\dfrac{B}{C}$, $\cos{\alpha}=\dfrac{A}{C}$を満たす実数である.
この公式は覚えるものではなく,考え方を理解して使うものです.実際,私は考え方から瞬時に導けるので,この公式を覚えていません.
このように,公式として覚えようとすると複雑ですが,考え方さえ分かっていれば当たり前に成り立つことが分かります.
特別な場合の考え方
まずは$A^2+B^2=1$が成り立つ場合について考えましょう.
もしも$A^2+B^2=1$であれば,$xy$平面上の点$(A,B)$は原点からの距離が1なので,単位円周上に存在することになります.
このときの点$(A,B)$の$x$軸正方向からの偏角を$\alpha$とすると,三角関数の定義から$A=\cos{\alpha}$, $B=\sin{\alpha}$とおくことができます.
【三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】
直角三角形を用いて定義する三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$は$0^\circ<\theta<90^\circ$の範囲しか考えることができませんでした.そこで,$xy$平面の単位円周上の点Pの$x$軸正方向からの偏角が$\theta$のとき,点Pの座標を$(\cos{\theta},\sin{\theta})$と定義することで,直角三角形の定義と矛盾することなく,任意の実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えることができるのでした.
よって,三角関数の加法定理より
だから,
が成り立ちます.
よって,$A^2+B^2=1$の場合には,$C=\sqrt{A^2+B^2}=1$なので,確かに[三角関数の合成]が成り立っていることが分かりましたね.
【前回の記事:三角関数7|三角関数の加法定理の周辺を総まとめ】
三角関数の加法定理は,偏角が$(\alpha+\beta)$の三角関数に関する公式です.加法定理を用いることで,三角関数の他の多くの公式の導出もできるので,三角関数の公式の中でも中心的な存在です.前回の記事では,加法定理を説明してから,2倍角の公式/3倍角の公式,半角の公式,積和の公式/和積の公式を導いています.
証明
さて,$A^2+B^2=1$が成り立たない場合には,点$(A,B)$が単位円周上に存在しないので,$A=\cos{\alpha}$, $B=\sin{\alpha}$とおくことができません.
しかし,同様の考え方から[三角関数の合成]を導くことができます.
$xy$平面上の点$(A,B)$は原点からの距離は$\sqrt{A^2+B^2}$なので,原点中心,半径$\sqrt{A^2+B^2}$の円周上に存在することになります.
ここで,$C=\sqrt{A^2+B^2}$とおきましょう.
よって,$(A,B)$を原点中心に$C$倍縮めた点$\bra{\frac{A}{C},\frac{B}{C}}$は単位円周上に存在しますね.
このときの点$\bra{\frac{A}{C},\frac{B}{C}}$の$x$軸正方向からの偏角を$\alpha$とすると,三角関数の定義から$\frac{A}{C}=\cos{\alpha}$, $\frac{B}{C}=\sin{\alpha}$とおくことができます.
よって,三角関数の加法定理より
が成り立ちます.
これで[三角関数の合成]が成り立つことが示されました.
つまり,$(A,B)$が単位円上になければ,$(A,B)$が単位円上にくるように拡大縮小すればいい,というわけですね.
点$(A,B)$の原点からの距離は$\sqrt{A^2+B^2}$だから,点$\bra{\frac{A}{\sqrt{A^2+B^2}},\frac{B}{\sqrt{A^2+B^2}}}$は単位円上に存在し,$\frac{A}{\sqrt{A^2+B^2}}=\cos{\alpha}$, $\frac{B}{\sqrt{A^2+B^2}}=\sin{\alpha}$とおける.これにより,加法定理から三角関数の合成ができる.
三角関数の合成の例
それでは,三角関数の合成の例を考えます.
三角関数の合成は$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$の形の場合にのみ使えることに注意してください.
いずれも公式に当てはめるのではなく,考え方から導いています.
慣れればこれでも十分速いですし,何より暗記ミスによる間違いがおきません.
国公立大学の2次試験では,6割程度得点できれば合格点となるところが多いです.よって,「7割解いて,そのうちの9割正解」であれば,6割3分で十分に合格点です.逆に,普段からよくミスをし,正解率が7割程度であれば,9割近くも解かなければ合格になりません.こう考えると,下手に暗記してミスのリスクを取るよりも,正解率を高くする戦略の方が合理的です.
例1
$-\sin{\theta}+\cos{\theta}$を$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形に合成しましょう.
座標上の点$(-1,1)$は$(-1)^2+1^2=\sqrt{2}$より原点との距離が$\sqrt{2}$なので,$\bra{-\dfrac{1}{\sqrt{2}},\dfrac{1}{\sqrt{2}}}$が単位円周上に存在します.
よって,$-\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\sin{\alpha}$ ($0\le<\alpha\le2\pi$)とおくことができるので,
となります.いま,$-\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\sin{\alpha}$を満たす$\alpha$は$\alpha=\dfrac{3\pi}{4}$と具体的に分かるので,
となりますね.
たまたま$\alpha$が有名角で分かりましたが,係数が綺麗でない場合には分からないことも多いです.
しかし,この例のように$\alpha$の値が分かる場合には,実際に$\alpha$を求めた方が良いでしょう.
例2
$3\sin{\theta}+4\cos{\theta}$を$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形に合成しましょう.
座標上の点$(3,4)$は$3^2+4^2=5$より原点との距離が5なので,$\bra{\dfrac{3}{5},\dfrac{4}{5}}$が単位円周上に存在します.
よって,$\dfrac{3}{5}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{4}{5}=\sin{\alpha}$ ($0\le<\alpha\le2\pi$)とおくことができるので,
となります.
$\sqrt{A^2+B^2}$でくくることによって,$\sin{\alpha}$, $\cos{\alpha}$に置き換えることができる.
三角関数の合成の別パターン
上では$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形への合成を考えましたが,同様に考えることで$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形への合成も成り立つことが分かります.
三角関数の合成
以下の式変形も[三角関数の合成]といいます.
[三角関数の合成] 任意の実数$A$, $B$, $\theta$に対して,次が成り立つ.
ただし,$C=\sqrt{A^2+B^2}$であり,$\alpha$は$0\le\alpha<2\pi$, $\sin{\alpha}=\dfrac{A}{C}$, $\cos{\alpha}=\dfrac{B}{C}$を満たす実数である.
$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形への合成を考えたい場合には,加法定理
を使うので,$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$について,$A$を$\cos{\alpha}$で表し,$B$を$\sin{\alpha}$で表すのが良かったのでした.
一方,$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形への合成を考えたい場合には,加法定理
を使うことになるので,$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$について,$A$を$\sin{\alpha}$で表し,$B$を$\cos{\alpha}$で表すと良さそうですね.
実際,$C=\sqrt{A^2+B^2}$, $\dfrac{A}{C}=\sin{\alpha}$, $\dfrac{B}{C}=\cos{\alpha}$とすると
となって,確かに$C\cos{(\theta-\alpha)}$へ合成できることが分かりました.
それでは,$C\cos{(\theta+\alpha)}$への合成で扱った2つの例で,$C\cos{(\theta-\alpha)}$へも合成してみましょう.
例1
$-\sin{\theta}+\cos{\theta}$を$C\cos{(\theta-\alpha)}$の形に合成しましょう.
座標上の点$(1,-1)$は$1^2+(-1)^2=\sqrt{2}$より原点との距離が$\sqrt{2}$なので,$\bra{\dfrac{1}{\sqrt{2}},-\dfrac{1}{\sqrt{2}}}$が単位円周上に存在します.
よって,$\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\cos{\alpha}$, $-\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\sin{\alpha}$ ($0\le<\alpha\le2\pi$)とおくことができ,このとき$\alpha=\dfrac{7\pi}{4}$なので,
となります.
例2
$3\sin{\theta}+4\cos{\theta}$を$C\cos{(\theta-\alpha)}$の形に合成しましょう.
座標上の点$(4,3)$は$4^2+3^2=5$より原点との距離が5なので,$\bra{\dfrac{4}{5},\dfrac{3}{5}}$が単位円周上に存在します.
よって,$\dfrac{4}{5}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{3}{5}=\sin{\alpha}$ ($0\le<\alpha\le2\pi$)とおくことができるので,
となります.
$C\cos{(\theta-\alpha)}$の形に合成するときは,$\cos{\theta}\cos{\alpha}+\sin{\theta}\sin{\alpha}$の形が現れるように,$\sin{\alpha}$, $\cos{\alpha}$をおけばよい.
三角関数の合成でできること
それでは最後に,三角関数の合成によってどういうことができるのかを例を挙げて説明します.
値域が求まる
$\theta$が実数全体を動くとき,$f(\theta)=2\sin{\theta}+3\cos{\theta}$のとりうる値の範囲を求めましょう.
なので,$\dfrac{2}{\sqrt{13}}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{3}{\sqrt{13}}=\sin{\alpha}$とおけるから,$f(\theta)$は
と合成できます.
$\theta$は実数全体を動くので,$\theta+\alpha$も実数全体を動き,$\sin{(\theta+\alpha)}$は$-1$から1を連続的に往復しますね.
よって,$\sin{(\theta+\alpha)}$のとりうる値の範囲は$-1\le\sin{(\theta+\alpha)}\le1$だから,$f(\theta)$のとりうる値の範囲は
となります.
方程式を解く
$\theta$の方程式$\sin{\theta}-\sqrt{3}\cos{\theta}=-1$ ($0\le\theta<2\pi$)を解きましょう.
左辺は
と合成できるので,方程式は
となります.ここで,$A=\theta-\dfrac{\pi}{3}$とおくと,方程式は
となり,$0\le\theta<2\pi$から$A$のとりうる値の範囲は$-\dfrac{\pi}{3}\le A<\dfrac{5\pi}{3}$となります.
これを解くと$A=-\dfrac{\pi}{6},\dfrac{7\pi}{6}$なので,$\theta=A+\dfrac{\pi}{3}$から求める解は$\theta=\dfrac{\pi}{6},\dfrac{3\pi}{2}$となります.
三角関数を含んだ基本的な方程式の解法は以下の記事を参照してください.
【前々回の記事:三角関数6|三角関数の方程式や不等式は,点をグルグル回せ!】
三角関数の方程式や不等式は単位円上で点を動かすことによって求めることができます.この際,未知数の動く範囲に注意することが大切です.
三角関数の合成を用いることで,$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$の形の関数の値の範囲を求めたり,$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}=C$の形の方程式を解くことができる.
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