次の問題はどのように解けばいいでしょうか?
$\theta$の方程式$\sin{\theta}-\sqrt{3}\cos{\theta}=-1$ ($0\le\theta<2\pi$)を解け.
以前の記事で扱った方程式・不等式は
といった形のものであり,$\sin$と$\cos$の和を含む方程式・不等式の解法については説明しませんでした.
実は$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$の形の式は前々回の記事で説明した三角関数の加法定理を用いると
のように1つの三角関数にまとめて表すことができます.
このような変形を三角関数の合成といい,上の問題は左辺で三角関数の合成を用いると$\sin{(\theta+\alpha)}=k$型の方程式に帰着し解くことができます.
この記事では
- 三角関数の合成
- 三角関数の合成の具体例
- 三角関数を用いた方程式の応用
- 三角関数の合成の別パターン
を順に説明します.
「三角関数」の一連の記事
三角関数の合成
三角関数の合成の考え方を説明してから,一般の三角関数の合成を説明します.
基本の考え方
実数$A$, $B$が$A^2+B^2=1$を満たすとしましょう.
このとき,$xy$平面上の点$(A,B)$は単位円周上に存在しますから,点$(A,B)$の$x$軸正方向からの偏角を$\alpha$とすると,三角関数の定義から
となりますね.
このとき,$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$は三角関数の加法定理を用いると,
とひとつの三角関数にまとめることができますね.
なお,三角関数の加法定理については以下の記事を参照してください.

加法定理の使い方を具体例から解説
一般の場合の考え方
いまは実数$A$, $B$が$A^2+B^2=1$を満たしている場合でしたが,$A^2+B^2=1$を満たしていなくても少し工夫すれば$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$はひとつの三角関数にまとめることができます.
少なくとも一方は$0$でない実数$A$, $B$に対して,$C=\sqrt{A^2+B^2}$とおくと
となるので,$A’=\dfrac{A}{C}$, $B’=\dfrac{B}{C}$とおくと$A’^2+B’^2=1$を満たしますから,先ほどと同様に
とおくことができますね.
よって,三角関数の加法定理を用いると,
とひとつの三角関数にまとめることができますね.
具体例
具体的に三角関数を合成してみましょう.
例1
$-\sin{\theta}+\cos{\theta}$を$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形に合成せよ.
係数の2乗和は$(-1)^2+1^2=2$だから,
が成り立ちます.よって,
とおくことができるので,
となります.いま,$-\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\sin{\alpha}$を満たす$\alpha$として$\alpha=\dfrac{3\pi}{4}$と具体的にとれるので,
となりますね.
$\alpha$に$0\leqq\theta<2\pi$と制限をつけたのは,$-\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\sin{\alpha}$となる$\alpha$は$2\pi$ごとに無数に存在するので,そのうちのひとつに決めるためです.
例2
$3\sin{\theta}+4\cos{\theta}$を$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形に合成せよ.
係数の2乗和は$3^2+4^2=25$だから,$\bra{\dfrac{3}{5},\dfrac{4}{5}}$が単位円周上に存在します.よって,
とおくことができるので,
となりますね.
例1ではたまたま$\alpha$が有名角で分かりましたが,この例2のように$\alpha$が求まらないことも多いです.
三角関数の合成の応用
次に三角関数の合成がどのように応用できるかを説明します.
関数の取りうる値の範囲
$\theta$が実数全体を動くとき,関数$f(\theta)=2\sin{\theta}+3\cos{\theta}$のとりうる値の範囲を求めよ.
係数の2乗和は$2^2+3^2=13$だから$\bra{\dfrac{2}{\sqrt{13}}}^2+\bra{\dfrac{3}{\sqrt{13}}}^2=1$が成り立つので,
とおける.よって,
と合成できる.$\theta$は実数全体を動くから$\theta+\alpha$も実数全体を動き,$\sin{(\theta+\alpha)}$のとりうる値の範囲は$-1\le\sin{(\theta+\alpha)}\le1$と分かるから,$f(\theta)$のとりうる値の範囲は
である.
三角関数の和の形$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$のままではそれぞれが増減するので値の範囲を考えるのは難しいですが,ひとつにまとめて$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形にしてしまえば考えやすいというわけですね.
方程式
$\theta$の方程式$\sin{\theta}-\sqrt{3}\cos{\theta}=-1$ ($0\le\theta<2\pi$)を解きましょう.
係数の2乗和は$1^2+(-\sqrt{3})^2=4$だから$\biggl(\dfrac{1}{2}\biggr)^2+\biggl(-\dfrac{\sqrt{3}}{2}\biggr)^2=1$が成り立つので,
とおくことができ,このような$\alpha$として$\alpha=\dfrac{\pi}{3}$がとれる.
よって,方程式の左辺は
と合成できるので,方程式は
となる.ここで,$0\le\theta<2\pi$から$-\dfrac{\pi}{3}\le\theta-\dfrac{\pi}{3}<\dfrac{5\pi}{3}$であることに注意すれば,
と解ける.
三角関数を含んだ基本的な方程式の解法は以下の記事を参照してください.

三角関数の方程式・不等式は点を回して考えよ
三角関数の合成の別パターン
ここまでは$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$を$C\sin{(\theta+\alpha)}$の形に合成してきましたが,同様に考えることで$C\sin{(\theta+\beta)}$の形に合成することもできます.
$\sin$への合成と同様に,$C=\sqrt{A^2+B^2}$とおいて
と$C$でくくります.
このとき,先ほどは$\dfrac{A}{C}=\cos{\alpha}$, $\dfrac{B}{C}=\sin{\alpha}$なる$\alpha$を考えましたが,$\dfrac{A}{C}=\sin{\beta}$, $\dfrac{B}{C}=\cos{\beta}$なる$\beta$をとることもできますね.
こうすると,$\cos$の加法定理を用いて
と合成することができますね.
例1
$-\sin{\theta}+\cos{\theta}$を$C\cos{(\theta-\beta)}$の形に合成せよ.
係数の2乗和は$(-1)^2+1^2=2$だから
とおくことができ,このような$\alpha$として$\alpha=\dfrac{7\pi}{4}$がとれる.
よって,
と合成できる.
例2
$3\sin{\theta}+4\cos{\theta}$を$C\cos{(\theta-\beta)}$の形に合成せよ.
係数の2乗和は$3^2+4^2=5^2$だから
とおくことができるので,
と合成できる.
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