あまり意識されないことですが,「関数の極限」と「数列の極限」の違いが分かっていないと間違えてしまう問題もあります.
例えば
- 数列$a_n=\sin{\pi n}$
- 関数$f(x)=\sin{\pi x}$
としたとき,$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$と$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)$は異なる結果になりますが,関数の極限と数列の極限の違いが意識できていないと,間違えてしまうかもしれません.
この記事では
- 数列$a_n$の極限
- 関数$f(x)$の極限
の2つの違いを説明します.
一連の記事はこちら
【極限の基本1|lim(リミット)の意味は?極限の考え方】
【極限の基本2|「関数の極限」と「数列の極限」の2つの違い】←今の記事
【無限級数1|[無限級数]の考え方を具体例から理解する】
【無限級数2|無限級数の発散条件と収束しない3つの例】
【無限級数3|無限等比級数の収束・発散は初項と公比に注目!】
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「関数の極限」と「数列の極限」の1つ目の違い
「関数の極限」と「数列の極限」の定義から1つ目の違いを説明します.
関数の極限
「関数の極限」には
- $x\to a$
- $x\to \pm\infty$
- $x\to a\pm0$
の3種類があります.
$x\to a$の極限
[関数の極限1] $x$が$a$と異なる値を取りながら$a$に限りなく近づくとき,関数$f(x)$がある一定の値$\alpha$に限りなく近付くならば,このことを
または
$x \to a$のとき$f(x)\to\alpha$
と表し,「$x\to a$のとき$f(x)$は$\alpha$に収束する」といい,この$\alpha$を「$x\to a$のときの$f(x)$の極限値」という.
この極限は微分を導入するために必要なので,数学IIで扱いますね.
この$x\to a$の極限については前回の記事で詳しく説明しています.
$x\to\pm\infty$の極限
[関数の極限2] 正の$x$が限りなく大きくなるとき,関数$f(x)$がある一定の値$\alpha$に限りなく近付くならば,このことを
または
$x \to \infty$のとき$f(x)\to\alpha$
と表し,「$x\to \infty$のとき$f(x)$は$\alpha$に収束する」といい,この$\alpha$を「$x\to \infty$のときの$f(x)$の極限値」という.
[関数の極限2’] 負の$x$が限りなく小さくなるとき,関数$f(x)$がある一定の値$\alpha$に限りなく近付くならば,このことを
または
$x \to -\infty$のとき$f(x)\to\alpha$
と表し,「$x\to-\infty$のとき$f(x)$は$\alpha$に収束する」といい,この$\alpha$を「$x\to-\infty$のときの$f(x)$の極限値」という.
この極限は数学IIIの範囲です.
ある値に近付けるのではなく,限りなくどんどん$x$を大きくしたり,小さくしたりするのがこの極限です.
$x\to a\pm0$の極限
[関数の極限3] $x$が$a$より大きい値を取りながら$a$に限りなく近づくとき,関数$f(x)$がある一定の値$\alpha$に限りなく近付くならば,このことを
または
$x \to a+0$のとき$f(x)\to\alpha$
と表し,この$\alpha$を「$x\to a+0$のときの$f(x)$の右極限」という.
[関数の極限3’] $x$が$a$より小さい値を取りながら$a$に限りなく近づくとき,関数$f(x)$がある一定の値$\alpha$に限りなく近付くならば,このことを
または
$x \to a+0$のとき$f(x)\to\alpha$
と表し,この$\alpha$を「$x\to a+0$のときの$f(x)$の左極限」という.
この極限も数学IIIの範囲です.
なお,これらの定義で$a=0$の場合には
- 右極限は$x\to0+0$ではなく$x\to+0$
- 左極限は$x\to0-0$ではなく$x\to-0$
と表します.
例えば,$y=\dfrac{1}{x}$のグラフを描くと,以下のようになります.
この図から
- $x$を$0$に右から(大きい方から)近付けると,$\dfrac{1}{x}$はどんどん大きくなるので$\lim\limits_{x\to+0}\dfrac{1}{x}=\infty$
- $x$を$0$に左から(小さい方から)近付けると,$\dfrac{1}{x}$はどんどん小さくなるので$\lim\limits_{x\to+0}\dfrac{1}{x}=-\infty$
となります.
また,普通の極限$x\to a$は右極限$x\to a+0$と左極限$x\to a-0$が異なる場合には「存在しない」とするので,$\lim\limits_{x\to0}\dfrac{1}{x}$は存在しません.
数列の極限
一方,「数列の極限」は1種類しかありません.
[数列の極限] 数列$\{a_n\}$に対して,$n$を限りなく大きくするとき,$a_n$がある一定の値$\alpha$に限りなく近づくならば,
または
$n \to \infty$のとき$a_n\to\alpha$
と表し,「($n\to \infty$のとき)$\{a_n\}$は$\alpha$に収束する」といい,この$\alpha$を「($n\to \infty$のときの)$\{a_n\}$の極限値」という.
「数列の極限」では,「関数の極限」での$x \to a$に相当する極限はありません.
たとえば,関数では「$x\to3$」という極限を考えることがありますが,数列では「$n\to3$」という極限は考えません.
関数の極限の場合には
- $f(2.9)$
- $f(2.99)$
- $f(2.999)$
- $\dots$
のように$x$を$3$に近付けていくことで$x\to 3$の極限を考えることができますが,数列での$n$は整数なので$n=2,2.9,2.99,2.999,\dots$などとすることができません.
このため,関数の極限の$x\to a$と$x\to a\pm0$に相当するものが数列の極限にはなく,数列の極限は$n\to\infty$しか考えないわけですね.
「関数の極限」は$x\to a$,$x\to \pm\infty$,$x\to a\pm0$の3種類あるが,「数列の極限」は$n\to\infty$の1種類のみである.
「関数の極限」と「数列の極限」の2つ目の違い
2つ目の違いを見るために,次の問題を考えます.
次の問いに答えよ.
- 数列$a_n=\sin{\pi n}$について,極限$\lim\limits_{n\to\infty} a_n$が存在すれば求めよ.
- 関数$f(x)=\sin{\pi x}$について,極限$\lim\limits_{x\to\infty} f(x)$が存在すれば求めよ.
さて,どうでしょう.
冒頭でも書いたように,この2問の答えは異なります.
$a_n=\sin{\pi n}$と$f(x)=\sin{\pi x}$の違いは$n$と$x$の違いだけなので,「数列の$n$と関数の$x$がそれぞれ何者か」というところがポイントです.
数列の極限
まずは1問目です.$a_n=\sin{\pi n}$で定まる数列$\{a_n\}$は
- $a_1=\sin{\pi}=0$
- $a_2=\sin{2\pi}=0$
- $a_3=\sin{3\pi}=0$
- $\dots$
ですから,任意の自然数$n$に対して$a_n=0$です.よって,
となります.
関数の極限
次に2問目です.
$x$は実数なので,$f(x)=\sin{\pi x}$は$-1$から1の間を無限に往復し続けるので,$x\to\infty$としたときどこかに近づくということはありません.
したがって,$\lim\limits_{x\to\infty} f(x)$は存在しません.
このように,「関数の極限」と「数列の極限」の2つ目の違いは「数列の$n$は整数,関数の$x$は実数」です.
このように2問並べると違いに気付いて正しく答えられるかもしれませんが,どちらか1問を出されたときでも「数列の極限」なのか「関数の極限」なのかをしっかり意識して考えてください.
「関数の極限」では変数$x$は実数で,「数列の極限」では変数$n$は整数である.
無限級数
数列の分野では,$a_1+a_2+\dots+a_n$のような数列の和を考えました.
この数列の和は有限個の項の和ですが,数学IIIでは$a_1+a_2+\dots+a_n+\dots$のように無限に足し合わせ続けると,どんな値に近付くかを考えます.
この無限に足し合わせる数列の和は無限級数とよばれます.
次の記事では,無限級数の考え方を具体例を用いて説明します.