高校化学では,特に重要な工業的製法は5つあります.
そのうちの1つである[クメン法]はフェノールの製法で,主な原料はベンゼンとプロピレン$\ce{CH_3-CH=CH_2}$です.
なお,[クメン法]という名前ですが,クメンは途中で登場するだけであり,最終的に欲しいものはフェノールです.
[クメン法]は
ベンゼンとプロピレン$\ce{CH_3-CH=CH_2}$
↓
クメン
↓
クメンヒドロペルオキシド
↓
フェノール
という流れでフェノールをつくります.
クメンヒドロペルオキシドなど,ややこしい名前の物質が出てきて苦手意識のある人も多いようですが,実際は単純な流れの製法で全く難しいものでありません.
なお,せいぜいガスバーナー程度しか使わない「実験室的製法」に対して,「工業的製法」はビジネス用の製法で最も利益の上がるように物質を作るのが目標です.そのため,「無駄なく,安くを目指した製法」となっており,ガンガン圧力をかけたり,高温にすることができるのも特徴です.
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目次
クメン法の準備
[クメン法]と名前が付いていますが,このクメン法でつくりたい物質はフェノールです.
さて,クメン法で出てくる物質を並べておきます.
ベンゼン
最も簡単な芳香族炭化水素ですね.
プロピレン
「プロパン」の1つの単結合が2重結合になった物質なので「プロペン」と言っても正しいですが,「プロピレン」と呼ぶのが一般的です.
クメン
「ベンゼン」と「プロピレン」を反応させてできます.
クメンヒドロペルオキシド
$\ce{-O-O-}$結合をもつ化合物を「ペルオキシド」といいます.
「クメンヒドロペルオキシド」は「クメン」と「ヒドロ(水素)」の「ペルオキシド($\ce{-O-O-}$結合でつないでいる化合物)」という意味です.
このように,名前の意味を知っておくと覚えやすいですね.
よく物質名が問われるので,しっかり名前を覚えてください.
アセトン
ケトン基$\ce{-(C=O)-}$をもつ物質の典型的な例ですから,忘れていた人はここで思い出してください.
フェノール
ベンゼンに$\ce{OH}$が付加したものです.これが目的の物質ですね.
クメン法の考え方
それではクメン法の説明です.
クメンをつくる
クメンはベンゼンにプロピレンを付加させることで得られます.
プロピレンの下の炭素Cがベンゼンの1つの水素Hを奪い取って,下の炭素Cは$\ce{CH3}$になっていますね.
クメンヒドロペルオキシドをつくる
クメンを空気酸化すると,$\ce{-O-O-}$結合がクメンの側鎖の真ん中の炭素と水素の間にでき,クメンヒドロペルオキシドとなります.
なお,矢印の上の$\mrm{O}$は「酸化」を意味します.
フェノールをつくる
クメンヒドロペルオキシドを希硫酸で分解するとフェノールとアセトンができます.
この反応は,クメンヒドロペルオキシドからアセトンがぽろっと離れてそのままフェノールになる,という単純なものではなく,かなり複雑な反応になるのですが,それは高校範囲を超えるのでここでは触れません.
まとめ
流れとしては3ステップですし,複雑な反応でもありませんね.
以上の反応のイメージとしては,
に酸素$\mrm{O_2}$の原子Oを一個ずつ割り込ませて
にしたいわけですね.
このために,クメン→クメンヒドロペルオキシドの流れを経由すると,うまくいくというわけです.
ベンゼン+プロピレン$\ce{CH3-CH=CH2}$→クメン→クメンヒドロペルオキシド→フェノール
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