不定積分$\dint e^x\sin{x}\,dx$や$\dint e^x\sin{x}\cos{x}\,dx$は部分積分を使って計算する方法が教科書にも載っており,よく知られています.
しかし,これらの問題は部分積分を何回も使う必要があり,計算量が多くなりがちでミスしてしまうことがよくあります.特に,プラスマイナスの符号ミスがよくみられます.
そこで,部分積分を使わない計算量を減らすことができる計算方法を解説します.
方法としては,[積の微分公式]を使うわけですが,部分積分も積の微分公式も本質的には同じなのです.しかし,この記事で解説する[積の微分公式]による計算の方が見通しよく計算できます.
少し慣れが必要な方法なので無理に使う必要はありませんが,使える人は是非身に付けてください.
部分積分の公式 と 積の微分公式
まず,[部分積分の公式]は次の通りです.
[部分積分の公式] 微分可能な関数$f(x)$, $g(x)$に対して,
が成り立つ.ただし,$’$は微分を表す.
この[部分積分の公式]は,次のように導出されます.
[積の微分公式]より,
である.導関数を積分すると元に戻ることに注意すると,両辺$x$に関して積分して
が成り立つ.
さて,この導出で大切なことは[積の微分公式]から[部分積分の公式]が導出できるということです.
したがって,[部分積分の公式]を用いて計算できる積分は,[積の微分公式]を使っても計算できるということになります.
ポイントは[積の微分公式]$(f(x)g(x))’=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)$の$f'(x)g(x)$の部分が,計算したい積分$\dint f'(x)g(x)\,dx$に対応しているところです.
これがどうポイントなのかは,この後で説明する例を実際に見てコツを掴んでください.
[部分積分の公式]は[積の微分公式]から導出できるので,[部分積分の公式]を使って計算できる積分は[積の微分公式]を使って計算できる.
積の微分公式による積分
それでは,実際に不定積分を[部分積分の公式]を使わずに,[積の微分公式]から計算してみましょう.
例1
不定積分$\dint xe^x\,dx$を求めよ.
[積の微分公式]で$(f(x)g(x))’=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)$の$f'(x)g(x)$の部分が,計算したい積分$\dint f'(x)g(x)\,dx$になるので,$f'(x)g(x)=xe^x$となるように$f(x)$と$g(x)$を考えるわけです.
つまり,「何を微分すれば$xe^x$が出てくるのか」と考えるわけです.
そう考えると$f(x)=e^{x}$, $g(x)=x$とすれば,$f'(x)=e^x$ですから$f'(x)g(x)=xe^{x}$となって良さそうな気がしますね.
$xe^{x}$を$x$で微分すると
なので,この両辺を$x$で積分して
を得る($C$は積分定数).
なお,[部分積分の公式]を使って積分するなら
となります.1行目から2行目にかけて,積の微分公式を用いて説明したのが上の解答というわけですね!
$e^x$は$x$で微分しても変化しないことを用いるとよいことが多い.
例2
不定積分$\dint e^x\sin{x}\,dx$を求めよ.
この問題では「何を微分すれば$e^x\sin{x}$が出てくるのか」と考えれば良いですね.
具体的には$e^{x}\sin{x}$を微分すると$e^{x}$の方を微分した$e^{x}\sin{x}$が出てきますから,実際に微分すると
となります.
しかし,少し困りました.両辺を$x$で積分すると$\dint e^{x}\cos{x}\,dx$という今は出てきて欲しくないものが出てきそうです.
例1では$\dint e^{x}$だったので積分できましたが,$\dint e^{x}\cos{x}\,dx$はすぐに計算はできません.
この解決法として,微分して$e^{x}\cos{x}$が出てくるものを考えます.
$e^{x}\cos{x}$を微分すると
と$e^{x}\cos{x}$が出てきますから,$(1)-(2)$を考えれば$e^{x}\cos{x}$が消えてくれそうですね.
$e^{x}\sin{x}$と$e^{x}\cos{x}$を$x$で微分すると,
なので,辺々引いて
となる.この両辺を$x$で積分して
を得る.
実は[部分積分の公式]で$\dint e^{x}\sin{x}\,dx$を計算しようとすると,[部分積分の公式]を2回使う必要があります.そう考えると,(1)と(2)で[積の微分公式]を2回使ったことも納得できますね.
[部分積分の公式]を使う計算と見比べて納得してください.
例3
不定積分$\dint e^x\sin{x}\cos{x}\,dx$を求めよ.
この問題では,「何を微分すれば$e^x\sin{x}\cos{x}$が出てくるのか」と考えれば良いですね.
問2を参考にして一度考えてみてください.積の微分公式は3回使いますよ.
$e^{x}\sin{x}\cos{x}$, $e^{x}\cos^{2}{x}$, $e^{x}\sin^{2}{x}$を$x$で微分すると
だから,$(1)-(2)+(3)$より
となる.この両辺を$x$で積分して
を得る.
最初に考える(1)で,両辺を$x$で積分すると出てきて欲しくない$\dint e^{x}\cos^{2}{x}\,dx$と$\dint e^{x}\sin^{2}{x}\,dx$が出てきますね.
これを消すために(2)と(3)を考えているわけですね.
[積の微分公式]を3回使ったことからも分かるように,[部分積分の公式]で$\dint e^{x}\sin{x}\cos{x}\,dx$を計算しようとすると[部分積分の公式]を3回使う必要があります.
この問題も[部分積分の公式]を使う計算を自分でやってみて,ぜひ見比べて納得してください.
[積の微分公式]を使って積分計算をするときには,「何を微分すれば,欲しい被積分関数が現れるのか」を考える.