図の$\Ve{AF}$を$\Ve{AB}$と$\Ve{AC}$を用いて表すのは,ベクトルの基本問題としてよく出題されます.
当然,ベクトルの分野に書かれている問題ですから,「ベクトルを用いた基本解法」を知っておくことは大切です.
ただ,この問題はベクトルを用いない便利な方法で解くこともできます.
この記事では
- ベクトルを用いた基本解法
- メネラウスの定理を用いた解法
- 面積比を用いた解法
を紹介します.
ベクトルができないから便利な解法でカバーするのではなく,ベクトルを用いた解法をいつでも使えるようにしておき,その上で便利な解法を身につけてください.
とくに3つ目の「面積比を用いた解法」はとても速く解けるのでオススメです.
3パターンの解法
上にも書いたように,次の問題を考えます.
$\tri{ABC}$において,辺$\mrm{AB}$の中点を$\mrm{D}$,辺$\mrm{AC}$を$2:1$に内分する点を$\mrm{E}$とし,線分$\mrm{BE}$,$\mrm{CD}$の交点を$\mrm{F}$とする.
このとき,$\Ve{AF}$を$\Ve{AB}$と$\Ve{AC}$を用いて表せ.
この問題の解答として,次の3パターンのものが考えられます.
- ベクトルを用いた基本解法
- メネラウスの定理を用いた解法
- 面積比を用いた解法
1の「ベクトルを用いた基本解法」は教科書にも載っている方法で,分数係数の連立方程式が現れるので計算が面倒で嫌いな人も多いようです.
一方,2の「メネラウスの定理を用いた解法」,3の「面積比を用いた解法」はどちらもほとんど面倒な計算が必要なく,とても便利な解法です.
1の「ベクトルを用いた基本解法」は以下の記事で詳しく説明しているので,この記事では2の「メネラウスの定理を用いた解法」,3の「面積比を用いた解法」を説明します.
ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$に対して,$s\ve{a}+t\ve{b}=s’\ve{a}+t’\ve{b}$が成り立つとき$s=s’$, $t=t’$が成り立つでしょうか?実は無条件でこれは成り立たず,$\ve{a}$, $\ve{b}$が一次独立であることが必要です.この記事では,一次独立について説明し,具体的に「2直線の交点」を例題として使い方を考えます.
メネラウスの定理を用いた解法
メネラウスの定理を用いた解法です.
準備
次の定理をメネラウスの定理といいますね.
[メネラウスの定理] $\tri{ABC}$と直線$\ell$について,$\ell$は$\tri{ABC}$の頂点を通らず,どの辺とも平行でないとする.また,直線AB, BC, CAと直線$\ell$の交点をそれぞれR, P, Qとする.
このとき,等式
が成り立つ.
[メネラウスの定理]で用意するものは,「直線」と「三角形」の2つです.
答案の中でも,どの直線とどの三角形について[メネラウスの定理]を適用するのかを明記しておくと,スムーズに答案が書けます.
解答
それでは「メネラウスの定理を用いた解法」による解答です.
$\tri{ABE}$と直線$\mrm{CD}$に関してメネラウスの定理より,
である.$\dfrac{\mrm{DB}}{\mrm{AD}}=\dfrac{1}{1}$と$\dfrac{\mrm{CA}}{\mrm{EC}}=\dfrac{3}{1}=3$を併せて,
だから,$\dfrac{\mrm{FE}}{\mrm{BF}}=\dfrac{1}{3}$となる.よって,点$\mrm{F}$は線分$\mrm{BE}$を$3:1$に内分する.
$\Ve{AE}=\dfrac{2}{3}\Ve{AC}$を用いると,内分公式から
となる.
$\mrm{FE}:\mrm{BF}$が分かれば,内分の公式から$\Ve{AF}$が得られるというアイデアですね.
メネラウスの定理を用いて,交点による内分比を求める.
面積比を用いた解法
面積比を用いた解法です.
この解答はそれほど知られているわけではありませんが,中学受験ではベクトルもチェバの定理,メネラウスの定理も使えないので,中学受験組はこの面積比を用いた解法を知っている人も多いようです.
辺の比と面積
この解法で大切なことは以下の定理です.
$\tri{ABC}$と,$\tri{ABC}$内部の点Pを考え,直線APと辺BCの交点をQとする.
このとき,2つの等式
が成り立つ.
基本的ですが,辺の比と面積を結びつける強力な定理ですね(チェバの定理はこの事実から簡単に導かれます).
解答
それでは「面積比を用いた解法」による解答です.
直線AFと直線BCの交点をGとする.
$\mrm{AE}:\mrm{EC}=2:1$と$\mrm{AD}:\mrm{DB}=1:1$から,それぞれ面積比$\tri{BFA}:\tri{BFC}=2:1$と$\tri{CFA}:\tri{CFB}=1:1$を得る.
よって,$\tri{BFA}:\tri{BFC}:\tri{CFA}=2:1:1$である.
これより,$\tri{ABC}:\tri{FBC}=4:1$なので,$\mrm{AG}:\mrm{FG}=4:1$である.
また,$\tri{BFA}:\tri{CFA}=2:1$なので,$\mrm{BG}:\mrm{GC}=2:1$だから内分公式から$\Ve{AG}=\dfrac{\Ve{AB}+2\Ve{AC}}{3}$である.
よって,
となる.
$\Ve{AF}=\dfrac{\mrm{AF}}{\mrm{AG}}\Ve{AG}$なので,$\dfrac{\mrm{AF}}{\mrm{AG}}$を求め,$\Ve{AG}$を$\Ve{AD}$と$\Ve{AC}$で表すことができれば,$\Ve{AF}$が得られるというアイデアですね.
辺の比を使って面積比を出し,その面積比から辺の比を出す.辺の比と面積比の関係を意識する.
【次の記事:ワンステップ数学2|部分積分を使わずに楽に計算する方法】
例えば$\dint_{0}^{\pi}e^x\sin{x}\,dx$や$\dint_{0}^{\pi}e^x\sin{x}\cos{x}\,dx$といった数学IIIの積分は,部分積分を繰り返し使うことで計算することができます.しかし,これらの積分は部分積分を使わなくても,楽に計算することができます.