下図の直角三角形$\mrm{ABC}$を考えたとき,中学校で学ぶ三平方の定理を用いると,斜辺$\mrm{AC}$の長さは
と計算できますね.
つまり,直角三角形の2つの辺の情報が与えられている場合には,三平方の定理から残り一辺の長さが求められるわけですね.
では,下図の直角三角形$\mrm{ABC}$を考えたとき,辺$\mrm{BC}$の長さはどのようにすれば表せるでしょうか?
実は数学Iで学ぶ三角比
- $\sin{\theta}$
- $\cos{\theta}$
- $\tan{\theta}$
を用いると,中学校までの知識では表すことが難しい辺の長さも表すことができるようになります.
この記事では
- 三角比の定義
- 三角比はどのように便利か?
- 有名角の三角比の値
を順に説明します.
「三角比」の一連の記事
三角比とは何か?
まずは三角比の定義を説明してから,三角比の便利さを説明します.
三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の定義
$\ang{B}=90^{\circ}$の直角三角形$\tri{ABC}$と,$\ang{B’}=90^{\circ}$の直角三角形$\tri{A’B’C’}$を考えます.
このとき,もし$\ang{A}=\ang{A’}$であれば,この2つの直角三角形は二角相等(2つの角がそれぞれ等しい)により相似であることが分かります.
よって,相似$\tri{ABC}\sim\tri{A’B’C’}$により,$\mrm{AB}:\mrm{BC}:\mrm{CA}=\mrm{A’B’}:\mrm{B’C’}:\mrm{C’A’}$が成り立つので,
が成り立ちます.
つまり,$\ang{B}=\ang{90^{\circ}}$の直角三角形で$\ang{A}$の大きささえ決めてしまえば,$\dfrac{\mrm{AB}}{\mrm{AC}}$, $\dfrac{\mrm{BC}}{\mrm{AC}}$, $\dfrac{\mrm{CB}}{\mrm{AB}}$の値は辺の長さがどうであろうと同じということになります.
そこで,「$\ang{A}$を決めればこれら3つの辺の比が決まるから,この3つの辺の比に名前をつけよう」ということで,以下のように三角比を定義します.
$\ang{B}=90^{\circ}$の直角三角形$\tri{ABC}$に対して,$\theta=\ang{A}$とする.
このとき,$\cos{\theta}$, $\sin{\theta}$, $\tan{\theta}$を
と定める.また,$\cos$を余弦,$\sin$を正弦,$\tan$を正接という.
どの辺の比がどの三角比になるのかは,ルール(定義)なのでしっかり覚えてください.
三角比が便利な理由
冒頭でも考えた
- $\ang{A}=25^\circ$
- $\ang{B}=90^\circ$
- $\mrm{AB}=3$
の直角三角形を考えましょう.
このとき,中学数学までの知識では辺$\mrm{AB}$や辺$\mrm{BC}$の長さを表そうとしても,どうにも難しいです.
しかし,三角比を使えば
と表すことができます.
このように三角比を用いることで新たに辺の長さを表現できるようになることが,三角比が便利な大きな理由です.
「$\sin{25^\circ}$や$\cos{25^\circ}$の値が分からないから,上手くいった気にならない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが,「とりあえず表現できるようになった」ということだけでもかなりの前進ですね.
具体的な三角比の値
$30^\circ$, $45\circ$, $60^\circ$に関する三角比は三平方の定理から簡単に求まるので,
- $\sin{30^\circ}$, $\cos{30^\circ}$, $\tan{30^\circ}$
- $\sin{45^\circ}$, $\cos{45^\circ}$, $\tan{45^\circ}$
- $\sin{60^\circ}$, $\cos{60^\circ}$, $\tan{60^\circ}$
は有名角の三角比と呼ばれることがあります.
${30^\circ}$の三角比
$\cos{30^\circ}$, $\sin{30^\circ}$, $\tan{30^\circ}$を以下の図で考えましょう.
この直角三角形$\tri{ABC}$は正三角形$\mrm{ACC’}で,辺$\mrm{CC’}の中点を$\mrm{B}$とすると描けますね.
よって,$\mrm{BC}:\mrm{CA}=\dfrac{1}{2}\mrm{CC’}:\mrm{CA}=1:2$ですから,三平方の定理より$\mrm{AB}:\mrm{BC}:\mrm{CA}=\sqrt{3}:1:2$となり,
が分かります.
${45^\circ}$の三角比
$\cos{45^\circ}$, $\sin{45^\circ}$, $\tan{45^\circ}$を以下の図で考えましょう.
この直角三角形$\tri{ABC}$は$\mrm{AB}=\mrm{BC}$, $\ang{B}=90^{\circ}$の直角二等辺三角形なので,三平方の定理と併せて$\mrm{AB}:\mrm{BC}:\mrm{CA}=1:1:\sqrt{2}$となり,
が分かります.
${60^\circ}$の三角比
$\cos{60^\circ}$, $\sin{60^\circ}$, $\tan{60^\circ}$を以下の図で考えましょう.
これは$30^\circ$のときと相似なので,$\mrm{AB}:\mrm{BC}:\mrm{CA}=1:\sqrt{3}:2$となり,
が分かります.
有名角の三角比のまとめ
以上をまとめると
$\theta$ | $30^\circ$ | $45^\circ$ | $60^\circ$ |
---|---|---|---|
$\cos{\theta}$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{2}}\biggl(=\dfrac{\sqrt{2}}{2}\biggr)$ | $\dfrac{1}{2}$ |
$\sin{\theta}$ | $\dfrac{1}{2}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{2}}\biggl(=\dfrac{\sqrt{2}}{2}\biggr)$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ |
$\tan{\theta}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{3}}$ | $1$ | $\sqrt{3}$ |
となりますね.
覚え方
邪道な覚え方ですが,$\sin{\theta}$は$\theta$が$30^{\circ}$→$45^{\circ}$→$60^{\circ}$となるとき
とたまたま分子の$\sqrt{\quad}$の中身が$1$→$2$→$3$と増えていきます.これを知っていれば覚えやすいかと思います.
$\cos{\theta}$はこの逆で$\theta$が$30^{\circ}$→$45^{\circ}$→$60^{\circ}$となるとき
となっていますね.
$\sin{45^\circ}$, $\cos{45^\circ}$の値
$\sin{45^\circ}$, $\cos{45^\circ}$の値は
のどちらで表されることも多いです.
どちらも同じ値だという感覚は持っておきたいところです.
三角比の関係
この記事では,三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の定義を説明しました.
三角比のどれか1つの値を決めると直角三角形の2辺の長さの比を決めることになり,直角三角形は2辺の長さが決まると残り1つの辺の長さが求まるので,残りの三角比も求まることになります.
つまり,三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$は互いに関係し合っていることになります.
次の記事では$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の関係式について説明します.
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