この記事までは,直角三角形の1つの鋭角を$\theta$として三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えてきました.
このため,角度$\theta$は$0^\circ<\theta<90^\circ$の範囲でしか考えることができません.
そこで$0^{\circ}<\theta<90^{\circ}$から拡張して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を定義しようというのが今回の記事の目標です.
「そんなん考えて何になんの?」と思うかもしれませんが,例えば後の記事で扱う正弦定理と余弦定理では角度$\theta$が$90^\circ$以上の場合に$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$が定義されていると便利なのです.
この記事では
- $0^\circ\leqq \theta\leqq 180^\circ$の場合の$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の定義
- いくつかの基本的な三角比の性質
を順に説明します.
「三角比」の一連の記事
三角比の基本的な考え方
本題に入る前に,まずは以下の事実を当たり前にしておきましょう.
$\ang{B}=90^\circ$の直角三角形$\tri{ABC}$を考える.このとき,$r=\mrm{AC}$, $\theta=\ang{A}$とすると,
- $\mrm{AB}=r\cos{\theta}$
- $\mrm{BC}=r\sin{\theta}$
が成り立つ.
とくに斜辺の長さが1の場合を考えると,下図のようになりますね.
さらに,この直角三角形を$xy$平面上に
- 点Aが原点
- 線分ABが$x$軸上
- 点Cの$y$座標が正
となるようにおくと,以下のようになりますね.
よって,点Cの$x$座標は$\cos{\theta}$で,$y$座標が$\sin{\theta}$となることが分かります.
${0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ}$のときの$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$
ここまでの考え方をもとに$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$で定義しましょう.
$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の定義
原点Oの$xy$平面において,点Pは$y$座標が$0$以上の単位円上の点,点Aを$(1,0)$とする.$\theta=\ang{AOP}$とするとき,
- Pの$x$座標を$\cos{\theta}$
- Pの$y$座標を$\sin{\theta}$
と定義する.また,$\cos{\theta}\neq0$のとき,$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$と定義する.
このように定義すれば$0^{\circ}<\theta<90^\circ$の場合の三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$と矛盾することなく,$0^{\circ}\le\theta\le180^\circ$の場合の$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$が定義できるわけですね.
また,直角三角形で定義した三角比では$\tan{\theta}$も辺の比で定義して,関係式$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$を導きましたが,ここではこの式によって$\tan{\theta}$を定義します.
ここで注意しなければならないのは,数学では0除算(0で割ること)はダメだということです.
よって,$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$の分母は0であってはいけないので,$\tan{\theta}$は$\cos{\theta}\neq0$となる$\theta\neq90^\circ$の場合を除外して定義するわけですね.
$\tan$の図形的意味
$\tan{\theta}$を$\cos{\theta}$と$\sin{\theta}$を使って式で定義しましたが,$\tan{\theta}$の図形的な意味を説明しておきます.
$xy$平面において,点Oを原点,点Pを単位円周上の点とすると,$\mrm{O}(0,0)$, $\mrm{P}(\cos{\theta},\sin{\theta})$ ($\theta$は実数)と表せるので,直線OPの傾きは
と分かります.すなわち,直線OPは$x$軸方向に$1$増加すると$y$軸方向に$\tan\theta$増加します.
よって,$xy$平面上の直線$x=1$と直線OPの交点の$y$座標が$\tan\theta$となります.
[1] $0^\circ\leqq\theta<90^\circ$のとき
[2] $90^\circ<\theta\leqq180^\circ$のとき
また,$\tan{\theta}$が直線の傾きを表すことから,さらに次が成り立ちますね.
$xy$平面上の直線$\ell$を考える.下図のように直線$\ell$と$x$軸の正方向とのなす角が$\theta$のとき,直線$\ell$の傾きは$\tan{\theta}$である.
[1] $0^\circ\leqq\theta<90^\circ$のとき
[2] $90^\circ<\theta\leqq180^\circ$のとき
点Pを$(\cos{\theta},\sin{\theta})$とすると,直線OPと直線$\ell$は同位角が等しいので平行です.
[1] $0^\circ\leqq\theta<90^\circ$のとき
[2] $90^\circ<\theta\leqq180^\circ$のとき
いま,直線OPの傾きは
なので,直線$\ell$の傾きも$\tan{\theta}$となります.
三角比の関係
前々回の記事で$0^\circ<\theta<90^\circ$の場合に三角比の4つの関係式
- $\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$
- $\cos^{2}{\theta}+\sin^{2}{\theta}=1$
- $1+\tan^{2}{\theta}=\dfrac{1}{\cos^{2}{\theta}}$
- $1+\dfrac{1}{\tan^{2}{\theta}}=\dfrac{1}{\sin^{2}{\theta}}$
が成り立つことを説明しました.
実はこれらは$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合の$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$に対しても成り立ちます.
$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$を満たす実数$\theta$について,
- $\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$
- $\cos^{2}{\theta}+\sin^{2}{\theta}=1$
- $1+\tan^{2}{\theta}=\dfrac{1}{\cos^{2}{\theta}}$
- $1+\dfrac{1}{\tan^{2}{\theta}}=\dfrac{1}{\sin^{2}{\theta}}$
の4つの関係式が成り立つ.
ただし,3つ目の公式は$\cos{\theta}\neq0$のときに,4つ目の公式は$\sin{\theta}\neq0$かつ$\tan{\theta}\neq0$のときに成り立つ.
$0^\circ<\theta<90^\circ$のときは$\sin{\theta},\cos{\theta},\tan{\theta}$はいつでも正なので分母が$0$になるかどうかは気にしなくても問題ありませんでした.
しかし,$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合には$\sin{\theta},\cos{\theta},\tan{\theta}$が$0$になることがあるので,3つ目と4つ目の関係式は分母が$0$にならないときのみ考えられますね.
$\tan{\theta}$の定義から,$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$が成り立つ.
また,単位円周上の点$(\cos{\theta},\sin{\theta})$と原点$(0,0)$との距離は1だから,
が成り立つ.
$\cos{\theta}\neq0$のとき,$\cos^{2}{\theta}+\sin^{2}{\theta}=1$の両辺を$\cos^{2}{\theta}$で割れば,
$\sin{\theta}\neq0$かつ$\cos{\theta}\neq0$のとき,$\cos^{2}{\theta}+\sin^{2}{\theta}=1$の両辺を$\sin^{2}{\theta}$で割れば,
が得られる.
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