前回の記事では単位円を使って$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$のときの三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を定義しました.
これによって,例えば次のような問題が考えられます.
次の式の値を求めよ.
この問題を解くために重要なのが,角度が$180^\circ-\theta$の三角比$\sin{(180^\circ-\theta)}$, $\cos{(180^\circ-\theta)}$, $\tan{(180^\circ-\theta)}$です.
これらは角度$\theta$の三角比$\sin{\theta},\cos{\theta},\tan{\theta}$に書き直すことができます.
前々回の記事で説明した$(90^\circ-\theta)$型の変換公式とやりたいことは同じですね.
この記事で示すように$\sin{(180^\circ-\theta)}=\sin{\theta}$が成り立つので,具体的に$\theta=25^\circ$とすると$\sin{155^\circ}=\sin{25^\circ}$が成り立つことが分かります.よって,
と値が求まります.
この記事では
- $(180^\circ-\theta)$型の三角比の変換公式の考え方
- $(180^\circ-\theta)$型の三角比の変換公式の具体例
- 有名角の三角比
- 三角形の面積公式
を順に説明します.
「三角比」の一連の記事
3つの$(180^\circ-\theta)$型の変換公式
次の3つの$(180^{\circ}-\theta)$型の三角比の変換公式が成り立ちます.
$0\leqq\theta\leqq180^\circ$なる実数$\theta$について,
- $\sin{(180^{\circ}-\theta)}=\sin{\theta}$
- $\cos{(180^{\circ}-\theta)}=-\cos{\theta}$
- $\tan{(180^{\circ}-\theta)}=-\tan{\theta}$
の3つの関係式が成り立つ.
$0\leqq\theta\leqq180^\circ$のとき,$\sin,\cos$の定義から$xy$平面上の2点
は$y$軸対称である.
よって,2点$\mrm{P}$, $\mrm{Q}$の$x$座標は符号が逆で,$y$座標は等しいから
が成り立つ.
また,$\tan$の定義$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$と,上で確かめた$(180^\circ-\theta)$型の$\sin$, $\cos$の公式より
が成り立つ.
証明中の図は$0^\circ\leqq\theta\le90^\circ$ですが,$90^\circ<\theta\leqq180^\circ$のときは下図のようになり同様に成り立つことが分かりますね.
$\tan{\theta}$は直線$\mrm{OP}$と直線$x=1$の交点の$y$座標でもありましたから,このことを利用すれば$\tan{(180^\circ-\theta)}=-\tan{\theta}$は図形的に理解することもできます.
具体例
それでは具体例を考えましょう.
次の式の値を求めよ.
- $\sin^2{25^{\circ}}+\cos^2{155^{\circ}}$
- $\dfrac{1}{\tan^{2}{34^\circ}}-\dfrac{1}{\sin{146^\circ}\sin{34^\circ}}$
この問題のように角度が統一されていない場合に,$(180^\circ-\theta)$型の三角比の変換公式を用いれば,角度が揃って上手く計算できる場合があります.
(1) $(180^{\circ}-\theta)$型の変換公式より
なので,関係式$\sin^2{\theta}+\cos^2{\theta}=1$と併せて
を得る.
(2) $(180^{\circ}-\theta)$型の変換公式より
なので,関係式$1+\dfrac{1}{\tan^{2}{\theta}}=\dfrac{1}{\sin^{2}{\theta}}$と併せて
を得る.
この解答で用いている関係式$\sin^2{\theta}+\cos^2{\theta}=1$と$1+\dfrac{1}{\tan^{2}{\theta}}=\dfrac{1}{\sin^{2}{\theta}}$については,以前の記事で詳しく説明しています.
いずれの問題も角度を統一することで計算できているという点を意識しましょう.
有名角の三角比
$0^\circ<\theta<90^\circ$の場合の有名角の三角比($\theta=30^\circ,45^\circ,60^\circ$の場合の$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$)については,以前の記事で以下のように求めましたね.
$\theta$ | $\sin{\theta}$ | $\cos{\theta}$ | $\tan{\theta}$ |
---|---|---|---|
$30^\circ$ | $\dfrac{1}{2}$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{3}}$ |
$45^\circ$ | $\dfrac{\sqrt{2}}{2}$ | $\dfrac{\sqrt{2}}{2}$ | $1$ |
$60^\circ$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $\dfrac{1}{2}$ | $\sqrt{3}$ |
また,前回の記事で説明した$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の定義から$\theta=0^\circ,90^\circ$の場合は下表のようになります.
$\theta$ | $\sin{\theta}$ | $\cos{\theta}$ | $\tan{\theta}$ |
---|---|---|---|
$0^\circ$ | $0$ | $1$ | $0$ |
$90^\circ$ | $1$ | $0$ | 定義されない |
$90^\circ<\theta\leqq180^\circ$の場合は,この記事で考えた$(180^\circ-\theta)$型の公式から$0^\circ<\theta<90^\circ$の場合をもとにして考えることができます.
以上をまとめると,下表のようになりますね.
$\theta$ | $\sin{\theta}$ | $\cos{\theta}$ | $\tan{\theta}$ |
---|---|---|---|
$0^\circ$ | $0$ | $1$ | $0$ |
$30^\circ$ | $\dfrac{1}{2}$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{3}}$ |
$45^\circ$ | $\dfrac{\sqrt{2}}{2}$ | $\dfrac{\sqrt{2}}{2}$ | $1$ |
$60^\circ$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $\dfrac{1}{2}$ | $\sqrt{3}$ |
$90^\circ$ | $1$ | $0$ | 定義されない |
$120^\circ$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $-\dfrac{1}{2}$ | $-\sqrt{3}$ |
$135^\circ$ | $\dfrac{\sqrt{2}}{2}$ | $-\dfrac{\sqrt{2}}{2}$ | $-1$ |
$150^\circ$ | $\dfrac{1}{2}$ | $-\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{3}}$ |
$180^\circ$ | $0$ | $-1$ | $0$ |
$90^\circ<\theta\leqq180^\circ$の場合は覚えるのではなく,$\theta=0^\circ,30^\circ,45^\circ,60^\circ,90^\circ$の三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$から$(180^\circ-\theta)$型の公式で(もしくは図から直接)導けるようにしておくことが大切です.
数学で暗記すると間違えているときに気付けなくなります(そして面白くないです)から,覚えることはできるだけ少なくしましょう.
三角形の面積の$\sin$公式
さて,三角形の面積は$\sin$を使って表すことができます.
$\tri{ABC}$について$\theta=\ang{A}$, $b=\mrm{CA}$, $c=\mrm{AB}$とすると,$\tri{ABC}$の面積は
である.
つまり,三角形の面積は
- 2辺の長さ
- その間の角の大きさ
が分かっていれば求められるわけですね.
頂点$\mrm{C}$から直線$\mrm{AB}$に下ろした垂線の足を$\mrm{H}$とすると,
なので,$\mrm{CH}=b\sin{\theta}$であることを示せばよい.
[1] $0^\circ<\theta<90^\circ$のとき
点$\mrm{H}$は直線$\mrm{AB}$上の点$\mrm{A}$に関して$\mrm{B}$側にあるので,下図のようになります.
よって,
が成り立ちます.
[2] $\theta=90^\circ$のとき
$\mrm{A}=\mrm{H}$となるので,下図のようになります.
よって,
が成り立ちます.
[3] $0^\circ<\theta<90^\circ$のとき
点$\mrm{H}$は直線$\mrm{AB}$上の点$\mrm{A}$に関して$\mrm{B}$側と反対側にあるので,下図のようになります.
よって,$(180^\circ-\theta)$型の変換公式より
が成り立ちます.
正弦定理
次の記事では正弦定理を説明します.
[正弦定理] 半径$R$の外接円をもつ$\tri{ABC}$について,$a=\mrm{BC}$, $b=\mrm{CA}$, $c=\mrm{AB}$とする.
このとき,等式
が成り立つ.
このように,正弦定理は
- 三角形の内角
- 辺の長さ
- 外接円の半径
を結びつける定理で,図形問題で重要な定理のひとつです.
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