三角形に関する三角比の定理として重要なものに前回の記事で説明した正弦定理があります.
この記事では正弦定理以上に重要といってもよい余弦定理を説明します.
三平方の定理は斜辺の長さが$a$で他の2辺の長さが$b$, $c$の直角三角形
に対して
が成り立つという定理ですが,直角三角形でない場合にも成り立つように拡張された定理が余弦定理です.
この記事では
- 余弦定理とは?
- 余弦定理の具体例
- 余弦定理の証明
- もうひとつの余弦定理
を順に解説します.
「三角比」の一連の記事
余弦定理
余弦定理の説明のために,まずは三平方の定理を確認しておきましょう.
[三平方の定理] $\ang{A}=90^{\circ}$の$\tri{ABC}$について,$a=\mrm{BC}$, $b=\mrm{CA}$, $c=\mrm{AB}$とする.
このとき,等式
が成り立つ.
この三平方の定理で$\ang{A}$が$90^\circ$でない場合にどうなるかを述べた定理が余弦定理で次のようになります.
[余弦定理] $\tri{ABC}$について,$a=\mrm{BC}$, $b=\mrm{CA}$, $c=\mrm{AB}$とし,$\theta=\ang{A}$とおく.
このとき,等式
が成り立つ.
$\theta=90^\circ$のときは$\cos{\theta}=0$となって三平方の定理が導かれるので,確かに余弦定理が三平方の定理の拡張になっていることが分かりますね.
言い換えれば,$\ang{A}$が$90^\circ$から$\theta$に変わると,三平方の定理で成り立つ等式が$-2bc\cos{\theta}$分だけズレるということになっているわけですね.
ベクトルを学ぶと内積とも関連付けて考えることができて,更に覚えやすくなります.
余弦定理の具体例
余弦定理は3辺の長さと1つの内角の大きさが絡むときに使うことが多いです.
このことを具体例から考えてみましょう.
例1
$\mrm{AB}=2$, $\mrm{BC}=3$, $\ang{B}=120^\circ$の$\tri{ABC}$に対して,辺$\mrm{CA}$の長さを求めよ.
余弦定理より,
である.ただし,最後の同値$\iff$では$\mrm{CA}>0$であることに注意.
例2
$\mrm{AB}=3$, $\mrm{BC}=\sqrt{7}$, $\mrm{CA}=2$の$\tri{ABC}$に対して,$\ang{A}$の大きさを求めよ.
余弦定理より,
である.
余弦定理の証明
それでは余弦定理$a^{2}=b^{2}+c^{2}-2bc\cos{\theta}$は
- $\ang{A}$と$\ang{B}$がともに直角または鋭角の場合
- $\ang{A}$が鈍角の場合
- $\ang{B}$が鈍角の場合
に分けて証明することができます.
[パターン1] $\ang{A}$と$\ang{B}$がともに直角または鋭角の場合.頂点$\mrm{C}$から辺$\mrm{AB}$に下ろした垂線の足を$\mrm{H}$とする.
$\tri{HBC}$において,
- $\mrm{AH}=b\cos{\theta}$
- $\mrm{CH}=b\sin{\theta}$
である.よって,$\tri{ABC}$で三平方の定理より,
となって,余弦定理が従う.
[パターン2] $\ang{A}$が鈍角の場合.頂点$\mrm{C}$から直線$\mrm{AB}$に下ろした垂線の足を$\mrm{H}$とする.
$\tri{HCA}$において,
- $\mrm{AH}=\mrm{AC}\cos{(180^\circ-\theta)}=-b\cos{\theta}$
- $\mrm{CH}=\mrm{AC}\sin{(180^\circ-\theta)}=b\sin{\theta}$
である.よって,$\tri{AHC}$で三平方の定理より,
となって,余弦定理が従う.
[パターン3] $\ang{B}$が鈍角の場合.頂点$\mrm{C}$から直線$\mrm{AB}$に下ろした垂線の足を$\mrm{H}$とする.
$\tri{HCA}$において,
- $\mrm{AH}=\mrm{AC}\cos{\theta}=b\cos{\theta}$
- $\mrm{CH}=\mrm{AC}\sin{\theta}=b\sin{\theta}$
である.よって,$\tri{BHC}$で三平方の定理より,
となって,余弦定理が従う.
パターン2の途中で用いた$(180^\circ-\theta)$型の変換公式については以下の記事を参照してください.

(180°-θ)型の変換公式はめっちゃ簡単!
もうひとつの余弦定理
実は「余弦定理」と呼ばれる定理は2つあり,以上で扱ってきた余弦定理は第2余弦定理と言います.単に「余弦定理」といった場合には以上で扱った第2余弦定理を指すことがほとんどです.
一方の余弦定理は第1余弦定理と呼ばれます.
[第1余弦定理] $\tri{ABC}$について,$a=\mrm{BC}$, $b=\mrm{CA}$, $c=\mrm{AB}$とする.
このとき,等式
が成り立つ.
$\ang{A}$と$\ang{B}$がともに鋭角の場合には,頂点$\mrm{C}$から辺$\mrm{AB}$に下ろした垂線を$\mrm{H}$とすれば,
$\mrm{AB}=\mrm{AH}+\mrm{BH}$と
- $\mrm{AH}=b\cos{\ang{A}}$
- $\mrm{BH}=a\cos{\ang{B}}$
から,すぐに第1余弦定理$c=b\cos{\ang{A}}+a\cos{\ang{B}}$が成り立つことが分かりますね.
また,$\ang{A}$が直角または鈍角の場合には,頂点$\mrm{C}$から辺$\mrm{AB}$に下ろした垂線を$\mrm{H}$とすれば,
$\mrm{AB}=\mrm{BH}-\mrm{AH}$と
- $\mrm{AH}=b\cos{(180^\circ-\ang{A})}=-b\cos{\ang{A}}$
- $\mrm{BH}=a\cos{\ang{B}}$
から,この場合もすぐに第1余弦定理$c=b\cos{\ang{A}}+a\cos{\ang{B}}$が成り立つことが分かりますね.
また,$\mrm{A}$と$\mrm{B}$は対称なので,$\ang{B}$が鈍角の場合にも同様に成り立ちます.
三角関数
以上で数学Iの「三角比」の分野の基本事項は説明し終えました.
数学IIになると,三角比は「三角関数」と呼ばれて非常に重要な道具となります.
次の記事から三角関数の説明に移ります.
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