高校数学で学ぶ「極限」では
- 関数の極限
- 数列の極限
の2種類があり,これらを区別して扱うことが多くあります.
その中でも,この記事では数IIで習う「関数の極限」について解説します.
平たく言えば,「関数$f(x)$の$x$をある実数$a$に近付けたときに,関数$f(x)$がどのような値に近付くのか」ということを考えるのが「関数の極限」です.
数IIまでしか習わない人にとっては,極限は微分を学ぶ時にしか現れないので,あまり印象に残らない概念の1つです.
しかし,理系の人は数IIIでは極限を頻繁に使うことになりますから,確実に押さえておく必要があります.
なお,「数列の極限」と「関数の極限」の違いを知っておくことは重要ですが,これについては次の記事で書くことにします.
一連の記事はこちら
【極限の基本1|lim(リミット)の意味は?極限の考え方】←今の記事
【極限の基本2|「関数の極限」と「数列の極限」の2つの違い】
【無限級数1|[無限級数]の考え方を具体例から理解する】
【無限級数2|無限級数の発散条件と収束しない3つの例】
【無限級数3|無限等比級数の収束・発散は初項と公比に注目!】
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「関数の極限」の基本
「極限」に慣れてくるとあたかも「代入」のように思えてしまいがちですが,
- 極限をとること
- 代入すること
は似て非なるものです.
このことを例題を用いて考えてみましょう.
定義
「関数の極限」の定義は以下の通りです.
[関数の極限] 関数$f(x)$に対して,$x$が$a$と異なる値を取りながら$a$に限りなく近づくとき,$f(x)$がある一定の値$\alpha$に限りなく近付くならば,このことを
または
$x \to a$のとき$f(x)\to\alpha$
と表し,「$x\to a$のとき$f(x)$は$\alpha$に収束する」といい,この$\alpha$を「$x\to a$のときの$f(x)$の極限値」という.
大切なことは「$x$が$a$と異なる値を取りながら$a$に限りなく近づける」という点です.
あくまで「$x=a$に近くなりはすれど,$x=a$とはしない」というところに「極限の良さ」があります.
例題
この「極限の良さ」を知るために,次の問題を考えてみます.
次の極限値を求めよ.
- $\lim\limits_{x\to3}(x^2+2x-3)$
- $\lim\limits_{x\to1}\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$
(1) $x\to3$のとき,$x^2+2x-3$は$3^2+2\cdot3-3=12$に近付く.
したがって,$\lim\limits_{x\to3}(x^2+2x-3)=12$である.
(2) $\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$は
となるから,$x\to1$のとき$1-2=-1$に近付く.
したがって,$\lim\limits_{x\to1}\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}=-1$である.
(2)では
「$\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$の分母$x-1$は$x=1$で0になるけど大丈夫?」
という疑問を持つ人がいるかもしれません.確かに,
- $x=1$では分母が0になりますし,
- 0で割ることはいけません
しかし,この極限の場合には問題ありません.
大切なことは「$x\to1$の極限」と「$x=1$の代入」は違うということです.
定義で書いたように$x\to a$極限はあくまで「$x$が$a$と異なる値を取りながら$a$に限りなく近づくとき」を考えているだけなので,$x\to1$の極限は$x$を1に近づけるだけであって$x=1$を代入するのではないのです.
ですから,「$x$を1に近づけたときに,$\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$が近付いていく値」が,$\lim\limits_{x\to1}\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$の意味なのです.
このように,$x\to 1$ではむしろ$x$は1になってはいけないのです.
$x$が1にどれだけ近付いても$x\neq1$であれば,分母は0にならなので$\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$を考えることに問題はありませんね.
(1)では,$x^2+2x-3$で$x$を3に近づけると,$x=3$を代入した値に近づくので,$\lim\limits_{x\to1}(x^2-3x+2)$の値は$x=1$を代入したものが極限になっているだけなのです.
なお,0で割ってはいけない理由については,以下の記事で説明しています.
割り算$6\div3=2$は掛け算$2\times3=6$と同じ意味です.そこで,例えば割り算$6\div0=x$を掛け算に直すと$x\times0=6$となります.しかし,どのような$x$に対してもこの等式は成り立たないので,$x$は定義できません.したがって,0で割ることはできません.
不定形
もう1つ,(2)の$\lim\limits_{x\to1}\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$について,
「$\dfrac{x^2-3x+2}{x-1}$は$x\to1$で分母も分子も0に近づくんやから,極限は$\frac{0}{0}$って書けばええやん」
という疑問を持つ人がいるかもしれません.
これについて,次の(3)を考えてみます.
次の極限値を求めよ.
- $\lim\limits_{x\to1}\dfrac{2(x^2-3x+2)}{x-1}$
$\dfrac{2(x^2-3x+2)}{x-1}$は
なので,
である.
さて,(3)の$\lim\limits_{x\to1}\dfrac{2(x^2-3x+2)}{x-1}$をよく見てみると,$x\to1$で分母も分子も0に近付きます.つまり,不定形$\frac{0}{0}$となっています.
さて,(2)の極限も(3)の極限もともに$\frac{0}{0}$ですが,
- (2)の極限は$-1$
- (3)の極限は$-2$
となりました.つまり,同じ$\frac{0}{0}$の形でも極限は異なるのです.
このように,極限をとって$\frac{0}{0}$となるものは不定形といい,$\frac{0}{0}$では正しい極限を表せていないのです.
これが「不定形」という名前の通り,$\frac{0}{0}$は「値が定まらない形」なわけですね.
分母も分子も$x\to1$で0になるということは,[因数定理]から分母も分子も$(x-1)$を因数にもつということになります.
【多項式の基本8|[因数定理]と[剰余の定理]は当たり前!】
[因数定理]と[剰余の定理]は使えはするものの,なんとなくよく分からないという人が多い定理です.しかし,実際には理解してしまえば「アタリマエ」に思えるほど単純な定理なので,しっかり理解して使えるようにしてください.
ですから,$x-1$で約分することで,不定形とならずうまくいったわけです.
実は,$\frac{0}{0}$の他にも,$\frac{\infty}{\infty}$, $0\cdot\infty$, $\infty-\infty$の形になるものも不定形と呼ばれ,これらもその時々によって極限値が変わってきます.
このように,不定形は約分などにより不定形にならない式に変形してから,極限をとらなければ極限が分からないことに注意して下さい.
関数の極限と数列の極限の違い
数学IIIでは
- 数列の極限
- 関数の極限
の2つの極限を扱います.
これらの違いを雑に考えていると,間違えてしまう問題もあるので注意が必要です.
例えば
- 数列$\{a_n\}$を$a_n=\sin{(\pi n)}$
- 関数$f(x)$を$f(x)=\sin{(\pi x)}$
とするとき,数列の極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$と関数の極限$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)$の答えは違ってきます.
次の記事では,「数列の極限」と「関数の極限」の大きな2つの違いを説明します.