例えば,
- $0\times6$
- $6\times0$
- $0\div6$
はいずれも答えは0です.では,$6\div0$はどうでしょうか?
結果から言えば,実は$6\div0$の答えは0ではないどころか定義ができません.
このように0で割ることを0除算といい,数学では0除算は論理的に不合理なことをしているので避けなければなりません.
この記事では
- 0で割ってはいけない理由
- 0で割るとどうおかしなことが起こるか
などを説明します.
0で割ってはいけない理由
まずは0で割ってはいけなさそうなことを実感しましょう.
電卓で実験してみる
電卓を使って$6\div0$を計算してみるとどうなるか,試してみたことはあるでしょうか?
是非とも一度やってみて欲しいのですが,少なくとも0にはならないはずです.なお,
- 私のスマートフォンの電卓では”$6\div0=\infty$”
- 関数電卓では”Math Error”
となりました.
このことからも「どうやら$6\div0$は0ではないらしい」ということが感じられると思います.
$6\div0=\infty$という答えは数学的にも間違いです.
0除算が定義されない理由
そもそも割り算は掛け算の逆演算として定義されていたことを思い出しましょう.
例えば,$3\times2=6$という掛け算をもとに,割り算は$6\div2=3$や$6\div3=2$と表すのでした.
このことは,一般には次のように書けますね.
実数$a$, $b$, $c$が$a\times b=c$をみたすとき,$c\div a=b$や$c\div b=a$と表す.
さて,ここで$0$で割ることを考えてみます.
$6\div0$が何らかの実数$X$になったとしましょう.つまり,$6\div0=X$と書けたとします.
このとき,$6\div0=X$の元々の掛け算は
ですが,$X$がどんな数であっても0をかけると必ず0になるので,等式$0\times X=6$は成り立ち得ません.
したがって,$6\div0=0$の結果をどのような実数$X$としても,掛け算に直したときにおかしなことになってしまうわけですね.
これが0除算が定義されない理由です.
0除算が直感的におかしい理由
とはいっても,直感的には理解しづらい方もいらっしゃるかもしれません.
ここで,0除算が直感的に良くなさそうな理由を挙げておきます.例えば,
と割る数を正の方からどんどん0に近づけていくと,商はどんどん大きくなっていきます.
一方,
と割る数を負の方からどんどん0に近づけていくと,商はどんどん小さくなります.
このように,どちらも同じく$6\div0$に近付いているはずなのに,一方は無限に増加し,他方は無限に減少します.
このことは反比例のグラフ$y=\dfrac{6}{x}$を思い出せば,より分かりやすいでしょう.
確かに
- $x$を正の方から0に近付けると,限りなく大きく
- $x$を負の方から0に近付けると,限りなく小さく
なっていますね.こう考えても確かに$6\div0$をうまく値として定義するのは難しそうですね.
以上のことは数IIIの言葉を使うと「右極限$\lim\limits_{x\to+0}\frac{6}{x}=\infty$と左極限$\lim\limits_{x\to-0}\frac{6}{x}=-\infty$が一致しない」と説明できます.
補足
0除算について,いくつか補足をします.
1=2のナンチャッテ証明
上記のように,数学において0除算はハッキリやってはいけないことです.
そこで,実際に0除算を使うとどのようなおかしなことが起こるのかを考えてみましょう.
以下の議論の誤りを指摘せよ:
$a=b$が成り立っているとする.このとき,両辺に$a$をかけて
となり,さらに両辺から$b^2$を引くことで
となる.両辺を因数分解すると
だから,両辺を$a-b$で割って$a+b=b$となる.
$a=b$だったから$2b=b$となり,両辺を$b$で割って$1=2が従う.
カモフラージュされて謝りが見えづらいかもしれませんが,ダメなところが分かるでしょうか?
もし分かり辛ければ,実際に$a=1$, $b=1$とおいて追ってみれば,おかしなところが分かるかもしれません.
もともと$a=b$だったから$a-b=0$なので,$a-b$で両辺を割るということは0除算をしてしまっている点が誤りである.
例えば$a=b=1$のとき,途中の
は$0\times2=0\times1$であるが,ここで0除算をして$2=1$と結論づけてしまっているのが誤りである.
不能と不定
とくに覚える必要はありませんが,
- 「存在しないこと」を不能
- 「1つに定まらないこと」を不定
といいます.例えば,
- 「方程式で解なしの場合」を不能
- 「方程式で解が無数の場合」を不定
となるわけですね.
不能となる場合
上のように$6\div0=X$を考えた場合,掛け算になおすと$0\times X=6$をみたす$X$が存在しませんでした.
したがって,この場合には不能となります.
「$3\div0$は?」や「$1\div0$は?」などと聞かれたときには,「定義できない」や「不能」と答えるのが正しいことになります.
不定となる場合
一方,$0\div0=X$となったとすると,もとの掛け算は$0\times X=0$となります.0にどんな実数をかけても0でしたから,$X$が何であってもこの掛け算をみたします.
したがって,$0\div0$の場合は値が1つに定まらないので不定となります.
「$0\div0$は?」と聞かれたときには,「定まらない」や「不定」と答えるのが正しいことになります.
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