水平な地面にボールを転がすと,ボールの動きはだんだん緩やかになり,やがては止まります.
これはボールの動きを妨げる向きに地面から「摩擦力」を受けていることが原因です.
摩擦力は物体と物体が触れていればはたらく可能性があり,物体が触れている場合にはいつでも「摩擦力」がはたらくかどうかは気にしたいところです.
「摩擦力」は
- 物体が静止しているときにはたらく摩擦力
- 物体がギリギリ動かないときにはたらく摩擦力
- 物体が動いているときにはたらく摩擦力
のどの場合かによって,求め方が変わります.
この記事で,この3つの「摩擦力」をしっかり区別できるようになってください.
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摩擦力
以下では,下図のように「床に置いた物体に大きさ$F[\mrm{N}]$の水平方向の力を加える」という状況を考えます.
さて,このとき床と物体の間にはたらく摩擦力は,加えた水平方向の$F[\mrm{N}]$の力と逆の向きにはたらきます.
つまり,加えられた力に対抗するような向きに摩擦力がはたらきます.
摩擦力は,いつでも動きを止める向きにはたらく.
それでは,以下で3パターンに分けて,摩擦力の「大きさ」を説明します.
物体が静止しているとき
机を動かそうとしても,少し押しただけでは机は動きません.
このように,物体に力を加えても,その加える力が弱いと物体は動かず,静止し続けます.
物体が静止しているということは,物体にかかる水平方向の力がつりあっているということなので,加えた力と摩擦力がつりあっていることになります.
物体にはたらく力の合力が0であるとき,物体にはたらく力はつりあっているといいます.物体にはたらく力がつりあっていれば,静止している物体は静止し続け,運動している物体は等速直線運動をします.
よって,摩擦力と加えた力の合力は0となるので,摩擦力は大きさは加えた力と同じで$F[\mrm{N}]$ということになります.
したがって,この場合の摩擦力は以下のようになります.
物体に水平方向の大きさ$F[\mrm{N}]$の力を加える.
このとき,物体が静止していれば,加えた力と逆向きに大きさ$F[\mrm{N}]$の摩擦力が地面と物体の間にはたらく.
物体が静止している以上,必ず力はつりあっています.
ですから,加える力を少しずつ大きくしていくと,それに伴って摩擦力もで大きくなっていきます.
このように,物体が動いていないのなら,摩擦力はいつでも加える力に合わせて摩擦力の大きさが決まります.
動いていない限り「加える力」の方が大きかったり,「摩擦力」の方が大きかったりといったことは絶対にないことは,当たり前にしておきましょう.
物体が動かないとき,摩擦力の大きさは加えた力の大きさ$F[\mrm{N}]$と等しい.
物体が動くとき
ある程度強く押すことで机を動かすことができますが,スーッと動くわけではなく少し抵抗も感じます.
このように,物体に強い力を加えると物体は運動をしますが,同時に摩擦力もはたらきます.
そこで,少しイメージして欲しいのですが,机を速く押してもゆっくり押しても,机から受ける力は変わらない気がしませんか?
静止しているときには摩擦力と押す力がつり合うので,押せば押すほど摩擦力は大きくなりますが,実は一旦動き出してしまえば,どんなに速く動かそうがどんなにゆっくり動かそうが,摩擦力は全く変わらないのです.
また,物体の質量が大きいほど,このときの摩擦力の大きさも大きいことは直感的に明らかでしょう.
より厳密に言えば,物体から地面に与える力(=地面からの垂直抗力)が大きいほど摩擦力も大きくなりそうですね.
実際,動いている時の物体と地面の間にはたらく摩擦力の大きさは,物体と地面の間にはたらく垂直抗力の大きさに比例します.
このときの比例係数$\mu’$を動摩擦係数といいます.
すなわち,地面と物体の間にはたらく垂直抗力が$N[\mrm{N}]$であれば,動摩擦係数$\mu’$を用いて摩擦力の大きさが$\mu’N[\mrm{N}]$となります.
動摩擦係数は床と物体の”相性”によって決まります.
例えば,ゴムとゴムの間の動摩擦係数は大きいですし,氷とガラスの間の動摩擦係数はとても小さいです.
物体と地面の間に$N[\mrm{N}]$の垂直抗力がはたらいている物体に,水平方向の大きさ$F[\mrm{N}]$の力を加える.
このとき,物体が動くならば,加えた力と逆向きに,大きさ$\mu’N[\mrm{N}]$の摩擦力がはたらく.ただし,$\mu’$は動摩擦係数といい,物体と床の材質に固有の量である.
実際の問題では,動摩擦係数は与えられていることがほとんどです.
物体が動く時の摩擦力は
- 動かす速さに関係なく摩擦力は一定
- 摩擦力の大きさは$\mu’N[\mrm{N}]$
物体がギリギリ動かないとき
物体に少しずつ力を加えていくと,物体が動き出す瞬間があります.
このような,「これ強い力を加えると物体は動く」という動かないギリギリの場合の摩擦力を考えます.
この「どれくらい力を加えると動き出すか」という力の大きさはいつでも一定で,「ときと場合によって動き出させるのに必要な力が違う」ということはありません.
この「動き出すギリギリの摩擦力の大きさ」を最大静止摩擦力といい,この大きさを$\mu N[\mrm{N}]$と表します.
ここで,$N[\mrm{N}]$は地面と物体の間にはたらく垂直抗力で,$\mu$を静止摩擦係数といいます.また,動摩擦係数の場合と同じく,静止摩擦係数は床と物体の”相性”によって決まります.
さて,一方で動き出す直前を考えているので,物体はまだ静止しています.
したがって,加えた力と摩擦力の大きさはつりあっており,摩擦力の大きさは$F[\mrm{N}]$でもあります.
つまり,この場合の「摩擦力」の「大きさ」は次の通りです.
物体と地面の間に$N[\mrm{N}]$の垂直抗力がはたらいている物体に,水平方向の大きさ$F[\mrm{N}]$の力を加える.
このとき,物体が動く直前の状態ならば,加えた力と逆向きに,大きさ$\mu N[\mrm{N}]=F[\mrm{N}]$の摩擦力がはたらく.ただし,$\mu$は静止摩擦係数といい,物体と床の材質に固有の量である.
静止摩擦係数が登場するのは,このギリギリの場合だけです.
しかし,ギリギリの場合でない単に静止している場合には,静止摩擦係数は使えないので注意してください.
物体が動くギリギリの状態の摩擦力は,最大静止摩擦力と呼ばれ$\mu N[\mrm{N}]$と表せる.また,加えた力と摩擦力はつりあっているので,摩擦力の大きさは$F[\mrm{N}]$でもある.
力と摩擦力のグラフ
物をぐーっと押していき一旦スッと動き出すと,動かし始めるときほど力を入れなくても動き続けることを,日常的に感じたことはあるのではないでしょうか?
実は,その実感は正しく,動き始めてからの方が動かし始める時より力が必要ないのです.
このことは,以下のように言い換えることができます.
同じ物体間での静止摩擦係数$\mu$と動摩擦係数$\mu’$は$\mu>\mu’$をみたす.
言い換えれば,「最大静止摩擦力は動摩擦力より大きい」ということになります.
これを踏まえると,物体に加える力$F[\mrm{N}]$の大きさと摩擦力$f[\mrm{N}]$の大きさの関係は次のグラフのようになります.
物体が静止しているときの摩擦力が赤線で,物体が動くときの摩擦力が青線ですね.
最大静止摩擦力の大きさは,動摩擦力の大きさよりも大きい.
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