前回の記事で説明したように,化学電池とは「酸化還元反応を利用して,電子$\mrm{e^-}$の移動を生じさせる装置」のことをいうのでした.
シンプルな化学電池であるボルタ電池を例に挙げて,電子$\mrm{e^-}$が導線を流れる様子を考えました.
さて,電池では電子$\mrm{e^-}$がどの向きに流れるかを理解することは重要で,そのために金属のイオン化傾向というものを理解する必要があります.
この記事では
- イオン化傾向
- イオン化列
- イオン化傾向の応用例
を順に説明します.
「電池と電気分解」の一連の記事
イオン化傾向とイオン化列
まずはイオン化傾向とイオン化列について説明します.
イオン化傾向
イオン化傾向とは次の性質のことを言います.
「溶液中に電子を放出して陽イオンになろうとする性質」をイオン化傾向という.
多くの単体の金属はイオン化傾向を持ちます.
例えば,希硫酸$\mrm{H_2SO_4}$に亜鉛$\mrm{Zn}$をボチャンと浸けると,
の反応が起こるのですが,実はこれは亜鉛$\mrm{Zn}$が
と陽イオン$\mrm{Zn^+}$化することが背景にあります.
このように,多くの単体の金属はイオン化傾向をもつために酸化還元反応が引き起こされ,電子$\mrm{e^-}$の移動が起こるわけですね.
イオン化列
実はイオン化傾向には金属によって強さがあります.
つまり,とても陽イオンになりたい金属もあれば,それほど陽イオンになりたいわけでもない金属もあります.
そこで,単体金属をイオン化傾向の強さの順に並べたものをイオン化列といい,具体的には次のようになっています.
つまり,この中ではカリウム$\mrm{K}$が最もイオン化傾向が強い(最も陽イオンになりやすい)物質で,金$\mrm{Au}$が最もイオン化傾向が弱い(最も陽イオンになりにくい)物質です.
この他にも単体金属はありますが,高校化学ではこれらだけでほとんど十分です.
よくある覚え方としては「借りよかな,まあアテにすんな,ひどすぎる借金」というものがあります.これは
借り($\mrm{K}$)よか($\mrm{Ca}$)な($\mrm{Na}$),
ま($\mrm{Mg}$)あ($\mrm{Al}$)ア($\mrm{Zn}$)テ($\mrm{Fe}$)に($\mrm{Ni}$)すん($\mrm{Sn}$)な($\mrm{Pb}$),
ひ($\mrm{H}$)ど($\mrm{Cu}$)すぎ($\mrm{Hg}$)る借($\mrm{Pt}$)金($\mrm{Au}$)
となっています.化学電池の反応がどのように進むかを判断するためにイオン化列は重要なので,きちんと覚えておいてください.
電池の電流の向き
前回の記事でボルタ電池を例に簡単に説明しましたが,ここでもボルタ電池を例に説明します.
ボルタ電池の電子$\mrm{e^-}$の移動の向き
ボルタ電池は亜鉛$\mrm{Zn}$と銅$\mrm{Cu}$を導線で結び,ボチャッと希硫酸$\mrm{H_2SO_4}$に浸ければ完成で,このとき電子$\mrm{e^-}$は亜鉛$\mrm{Zn}$から銅$\mrm{Cu}$へ移動するのでした.
図の導線の途中にある〇は抵抗で,たとえば豆電球だと思えばイメージとしては十分です.
電子$\mrm{e^-}$の移動の向きとイオン化傾向
さて,ここで次の問題を考えましょう.
ボルタ電池において,銅$\mrm{Cu}$ではなく亜鉛$\mrm{Zn}$が陽イオン化する理由を答えよ.
銅$\mrm{Cu}$も亜鉛$\mrm{Zn}$も単体の金属ですから,どちらにも陽イオンになる可能性があります.それではなぜ亜鉛$\mrm{Zn}$の方が陽イオンかするのでしょうか,という問題ですね.
この問題に答えるために活きてくるのがイオン化列です.もう一度イオン化列は
でしたから,陽イオンへのなりやすさは$\mrm{Zn>Cu}$となっていますね.つまり,亜鉛$\mrm{Zn}$の方が陽イオンになりやすいわけです.
そのため,上の問題には次のように答えることになるわけですね.
銅$\mrm{Cu}$のイオン化傾向と亜鉛$\mrm{Zn}$のイオン化傾向を比較すると,亜鉛$\mrm{Zn}$のイオン化傾向の方が大きいため亜鉛$\mrm{Zn}$が陽イオン化する.
このように,2つの単体の金属を繋いで電池を作るとき陽イオン化するのはイオン化傾向の強い方のみであり,イオン化傾向の弱い方は陽イオンにならず電子を受け取る役割を果たします.
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