以前の記事で三角比の場合には,
- $\sin{(90^\circ-\theta)}=\cos{\theta}$
- $\cos{(90^\circ-\theta)}=\sin{\theta}$
- $\tan{(90^\circ-\theta)}=\dfrac{1}{\tan{\theta}}$
が成り立つことを説明しましたが,この三角比の角度の変換公式は三角関数でも同様に成り立ちます.
ただ,三角関数になると,他にも$\tan{(180^\circ+\theta)}$や$\sin{(90^\circ+\theta)}$などの変換公式も出てきます.
これらの公式は非常に多いため,全部を覚えようとすると挫折してしまいます.
というより,これらの公式は丸覚えするようなものではありませんし,コツさえつかめばほんの数秒で導くことができます.
しかし,実は分かりやすい公式をほんの少し覚えるだけで,他の偏角の変換公式は全て導けるようになっています.
今回の記事では,偏角の変換公式をできるだけ覚えずに導けるようになる方法も説明します.
一連の記事はこちら
【三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】
【三角関数2|偏角の変換公式は覚えるな!簡単に導く方法!】←今の記事
【三角関数3|「ラジアン」の考え方,公式はシンプル!】
【三角関数4|有名角の三角関数は覚えるな!図で判断するコツ】
【三角関数5|三角関数のグラフは縦や横から見るべし!】
【三角関数6|三角関数の方程式や不等式は,点をグルグル回せ!】
【三角関数7|三角関数の加法定理の周辺を総まとめ】
【三角関数8|Asinθ+Bcosθの形は三角関数の合成!】
基本の変換公式
まずは角度の変換公式の中でも,理解しやすい公式を理解しましょう.
理解しやすい基本公式
以下の公式は図を考えれば一瞬で導ける公式です.まずはこれらを理解して覚えましょう.
実数$\theta$に対して,次が成り立つ.
- $\begin{cases}
\cos{(\theta\pm180^{\circ})}=-\cos{\theta}\\
\sin{(\theta\pm180^{\circ})}=-\sin{\theta}
\end{cases}$ - $\begin{cases}
\cos{(-\theta)}=\cos{\theta}\\
\sin{(-\theta)}=-\sin{\theta}
\end{cases}$ - $\begin{cases}
\cos{(90^{\circ}-\theta)}=\sin{\theta}\\
\sin{(90^{\circ}-\theta)}=\cos{\theta}
\end{cases}$
公式としては6個ありますが,$\sin$と$\cos$でペアになっているので
- タイプ1:$(\theta\pm180^{\circ})$型の公式
- タイプ2:$-\theta$型の公式
- タイプ3:$(90^{\circ}-\theta)$型の公式
の3タイプですね.
以下では,点Oを原点,点Pを単位円周上の偏角$\theta$の点$(\cos{\theta},\sin{\theta})$とします.
【前回の記事:三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】
三角比は直角三角形を用いて定義しますが,これでは$\theta$が$0<\theta<90^\circ$の範囲にあるときしか$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えることができません.しかし,$xy$平面の単位円上の点を考えることで,$\theta$が$0<\theta<90^\circ$以外の範囲にあるときに定義できるようになります.
タイプ1
単位円周上の偏角$\theta+180^\circ$の点も偏角$\theta-180^\circ$の点も,どちらも点Pと原点対称な点Qなので,下図のようになります.
よって,点P$(\cos{\theta},\sin{\theta})$と点Q$(\cos{(\theta\pm180^\circ)},\sin{(\theta\pm180^\circ)})$では,$x$座標,$y$座標がともに正負が逆になっているので,$(\theta\pm180^{\circ})$型の公式
- $\cos{(\theta\pm180^{\circ})}=-\cos{\theta}$
- $\sin{(\theta\pm180^{\circ})}=-\sin{\theta}$
が成り立ちます.
タイプ2
単位円周上の偏角$-\theta$の点は,どちらも点Pと$x$軸対称な点Qなので,下図のようになります.
よって,点P$(\cos{\theta},\sin{\theta})$と点Q$(\cos{(-\theta)},\sin{(-\theta)})$では,$x$座標は等しく,$y$座標の正負が逆になっているので,$-\theta$型の公式
- $\cos{(-\theta)}=\cos{\theta}$
- $\sin{(-\theta)}=-\sin{\theta}$
が成り立ちます.
タイプ3
タイプ3の
- $\cos{(90^{\circ}-\theta)}=-\sin{\theta}$
- $\sin{(90^{\circ}-\theta)}=\cos{\theta}$
は三角比($0<\theta<90^\circ$)の場合に成り立つことは,以前の記事で証明しました.
【三角比3|実は当たり前!?3つの(90°-θ)型の変換公式】
三角比の場合には,$\sin{(90^\circ-\theta)}$, $\cos{(90^\circ-\theta)}$, $\tan{(90^\circ-\theta)}$は,それぞれ$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$で表せるのでした.このことは,直角三角形をくるっと裏返すことで,簡単に証明できます.
この記事で証明しましたが,$0<\theta<90^\circ$の場合には以下のように直角三角形をイメージすれば簡単に覚えることができます.
$\ang{B}=90^\circ$の直角三角形ABCに対して,
このとき,$\ang{C}=90^{\circ}-\theta$であることを当たり前にしておけば,くるっと裏返した図
を見れば,$(90^\circ-\theta)$型と$\theta$型では$\sin$, $\cos$が入れ替わることが分かります.
ただし,$0<\theta<90^\circ$の範囲にない一般の$\theta$の場合に,この公式を図から直接証明するのは実は少々面倒です(証明は最後の「補足」を参照).
とはいえ,このタイプ3の公式は直角三角形から非常にイメージしやすいので,実用上はこの公式を基本として覚えておくのが良いでしょう.
偏角の変換公式のうちでも,覚えやすい
- タイプ1:$(\theta\pm180^{\circ})$型の公式
- タイプ2:$-\theta$型の公式
- タイプ3:$(90^{\circ}-\theta)$型の公式
をまずはフォローする.
偏角の変換公式の覚え方のコツ
もう一度,基本の6公式を書いておきます.
【再掲】実数$\theta$に対して,次が成り立つ.
- $\begin{cases}
\cos{(\theta\pm180^{\circ})}=-\cos{\theta}\\
\sin{(\theta\pm180^{\circ})}=-\sin{\theta}
\end{cases}$ - $\begin{cases}
\cos{(-\theta)}=\cos{\theta}\\
\cos{(-\theta)}=-\sin{\theta}
\end{cases}$ - $\begin{cases}
\cos{(90^{\circ}-\theta)}=\sin{\theta}\\
\sin{(90^{\circ}-\theta)}=\cos{\theta}
\end{cases}$
基本の6公式をしっかりフォローしておけば,例えば以下のものは慣れれば数秒で導けるようになります.
- $\sin(\theta-90^{\circ})=-\cos{\theta}$
- $\sin(90^{\circ}+\theta)=\cos{\theta}$
- $\tan(90^{\circ}+\theta)=-\tan{\theta}$
以下でこれらを基本の6公式から計算しましょう.
例1
$\sin(\theta-90^{\circ})$を簡単にせよ.
$\sin{(-A)}=-\sin{A}$と$\sin{(90^\circ-A)}=\cos{A}$を使えば,
が得られる.
$90^\circ$が絡む三角関数では,この$(90^\circ-\theta)$型に変形し,基本の6公式を利用すれば公式が得られます.
例2
$\sin(90^{\circ}+\theta)$を簡単にせよ.
$\sin{(90^\circ-A)}=\cos{A}$と$\cos{(-A)}=\cos{A}$を使えば,
が得られる.
やはり,$90^\circ$が絡む三角関数では,この$(90^\circ-\theta)$型に変形することになります.
$-\theta$を1つのカタマリとみて,$90^\circ+\theta=90^\circ-(-\theta)$とすれば,$(90^\circ-\theta)$型の公式が使えますね.
例3
$\tan(180^{\circ}-\theta)$を簡単にせよ.
$\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}$と$\cos{(-A)}=\cos{A}$と$\sin{(-A)}=-\sin{A}$を使えば,
が得られる.
$\tan$の場合には,三角関数の$\tan{\theta}$の定義式である$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$を用いて$\sin$と$\cos$を使って表してから,基本の6公式を使えば良いわけですね.
三角関数で$90^\circ$が絡む場合には,$(90^\circ-\theta)$型の公式を使えるように変形するとよい.
また,$\tan$が絡む場合には,$\tan{\theta}$の定義式である$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$を用いてから基本6公式を用いるとよい.
補足
最後に,先ほど予告していたように$0<\theta<90^\circ$の範囲にない一般の$\theta$の場合のタイプ3($(90^\circ-\theta)$型)の証明をしておきます.
証明には,$(\theta+90^\circ)$型の変換公式
- $\cos{(\theta+90^{\circ})}=-\sin{\theta}$
- $\sin{(\theta+90^{\circ})}=\cos{\theta}$
の証明を経由するのがやりやすいでしょう.
点Qを点Pを原点中心に$90^\circ$回転させた点$(\cos{(\theta+90^{\circ})},\sin{(\theta+90^{\circ})})$とすると,下図のようになる.
この図から,$(\theta+90^\circ)$型の変換公式
- $\cos{(\theta+90^{\circ})}=-\sin{\theta}$
- $\sin{(\theta+90^{\circ})}=\cos{\theta}$
が成り立つ.これを用いると,$(90^\circ-\theta)$型の変換公式
が得られる.
【次の記事:三角関数3|「ラジアン」の考え方,公式はシンプル!】
「〜度」という角度の表し方である「度数法」は数学的には都合が悪いことが多くあります.そのため,数学的に都合の良い「弧度法」が数学では広く使われます.「弧度法」は考え方が分かれば,とてもシンプルで,「弧度法」に関する基本的な公式も当たり前であることが分かります.
コメント
いつも勉強になる動画をありがとうございます。
質問なのですが、$\cos{(\theta\pm180^\circ)}$の解答は$-\cos{\theta}$ではないでしょうか。$\sin{(\theta\pm180^\circ)}$も同様に$-\sin{\theta}$になるように思います。なぜマイナスが付かないのかご教授いただければ幸いです。
こちらこそ,動画をご覧頂きありがとうございます!
また,重要なご指摘をありがとうございます.
ご指摘の通り$\cos{(\theta\pm180^\circ)}=-\cos{\theta}$, $\sin{(\theta\pm180^\circ)}=-\sin{\theta}$ですね.
誤植を修正しました!
$\cos{(-\theta)}=-\sin{\theta}$ → $\sin{(-\theta)}=-\sin{\theta}$かと思います。
間違えていればすみません。
ご指摘をありがとうございます!
$\cos(-\theta)$が二つ並んでしましたね.修正ました.