物理の目的には「未来の予測」があります.
たとえば,どのような向きに力を加えて人工衛星を飛ばせば地球の周回軌道に乗せられるか,といったことは「未来の予測」です.
この「未来の予測」を行う際,力がどのようにはたらいているのかを理解することは非常に大切です.
力がどのようにはたらくかを考える分野を力学といいますが,特に高校物理の力学では
- 重力
- 垂直抗力
- 摩擦力
- 張力
- 弾性力
- 浮力
の6種類の力が基本的です.
この記事では,力の考え方の基本を説明して,6種類の基本の力をまとめます.
一連の記事はこちら
【力の基本1|力学で基本的な6種類の力の総まとめ】←今の記事
【力の基本2|力のつりあいとその例】
【力の基本3|「運動方程式」は力がつり合わないときに考える!】
【摩擦力の基本|摩擦力の3パターンを理解する】
【張力の基本|滑車があっても怖くない】
【弾性力の基本|フックの法則は怖くない】
【浮力の基本|浮力を正しく理解する】
力とは
力を考えるときには,
- 大きさ
- 向き
- 作用点
3つを考えることが非常に大切で.これら3つを併せて「力の3要素」といいます.
言い換えれば,「力が『どの点』に『どの向き』に『どれくらいの大きさ』の力がかかっているのか」ということを,言えるようにしたいわけですね.
また,力を理解するためには,図に力の様子をベクトルで描き表せるようにすることが大切です.
逆に言えば,これができなければ「力のつりあい」や「力積」などに関して立式することすらできないので,全く歯が立たないという状況になってしまいます.
力の大きさの単位
力の大きさの単位はN(ニュートン)を用いることが多いです.
単位の定め方にはいろいろあるのですが,力の単位Nは
- 質量の単位:キログラム(kg)
- 長さの単位:メートル(m)
- 時間の単位:秒(s)
によって,
で表されます.
言葉で表すと,質量$1[\mrm{kg}]$の物体に加速度$1[\mrm{m/s^2}]$を与える力となります.
このことは,運動方程式を知っていれば納得できます.
力の種類
それでは,6種類の力
- 重力
- 垂直抗力
- 摩擦力
- 張力
- 弾性力
- 浮力
をみていきましょう.これらは全て力ですから,大きさの単位はいずれも$\mrm{N}$であることに注意してください.
重力
この宇宙の全ての質量を持つ物質は互いに引き寄せ合い,この互いに引き寄せ合う力を万有引力といいます.
質量が多ければ多いほど「万有引力」は大きくなりますが,私たちが歩いていて建物に引き付けられるように感じたりしないように,数百キロ,数トンレベルの質量では「万有引力」は無視できる程度でしかありません.
しかし,この質量が星レベルになると「万有引力」は無視できない大きさになり,この星レベルの万有引力を重力といいます.
重力の力の三要素「大きさ」「向き」「作用点」は次のようになります.
重力加速度を$g[m/s^2]$とする.質量$m[kg]$の物質にかかる重力は
- 大きさ:$mg[\mrm{N}]$
- 向き:鉛直下向き
- 作用点:物体の重心
である.
質量$m$は物質によって変わり,例えば
- 質量が2倍になれば重力も2倍に
- 質量が半分になれば重力も半分に
なります.このことは直感的にも合っていることだと思います.
また,「鉛直下向き」とは「地球の中心に向かう向き」のことをいいますが,イメージとしては地面に向かって「真下」というイメージで良いでしょう.
同じ高さから2つの物体を落下させるとき,空気抵抗を無視すれば,材質や質量によらず同時に地面に到達します.このとき,物体は等加速度直線運動をしており,このときの加速度を重力加速度といいます.
物体にはたらく重力の大きさは質量に比例する.
垂直抗力
接触している物体からまっすぐ押し返される力を垂直抗力といいます.
上図では,$\ve{N}$と$\ve{N’}$はいずれも垂直抗力です.
垂直抗力については,次の事実が大切です.
垂直抗力2つの物体の間にはたらく2つの垂直抗力は,向きが逆で大きさは等しい.
この事実から,上の$\ve{N}$と$\ve{N’}$の間には$\ve{N}=-\ve{N’}$の関係が成り立ちます.
また,垂直抗力は重力のように大きさを式でパッと表せるようなものではなく,大きさは状況によって様々で,多くの場合で
- 力のつりあい
- 運動方程式
から求めます.
「垂直抗力」は言葉で説明するよりも,実際に問題を解いて身に付けるのが良いでしょう.
初めのうちはよく「垂直抗力」を忘れることが多いです.
単に隣り合って「垂直抗力」がはたらかず静止している場合もありますが,「垂直抗力」は物体が接触している可能性があることはいつでも意識しておきましょう.
垂直抗力は物体が接触していればはたらく可能性があるので,物体が接触しているときはいつでも意識する.
摩擦力
物体が“滑る”ような力が与えられたとき,物体の“滑り”を妨げるようにはたらく力を摩擦力といいます.
上図では,
- $\ve{F}$が物体が“滑る”ような力
- $\ve{f}$が摩擦力
です.
物体をグーっと徐々に力を入れて押していくとき,ある程度力を加えると物体は動きます.このとき,
- 静止している状態
- あと少しでも力を大きくすると動くギリギリの状態
- 物体が動いている状態
の3つの状態があります.これについて,「摩擦力」の大きさは次のようになります.
物体は“滑る”物体との間に大きさ$N[\mrm{N}]$の垂直抗力がはたらいているし,“滑る”方向に大きさ$F[\mrm{N}]$の力を加える.
このとき,摩擦力の大きさを$f[\mrm{N}]$とする.
このとき,
- 物体が動かなければ,$f=F$である.
- 物体が動くならば,$f=\mu’N$である.ただし,$\mu’$は動摩擦係数という.
さらに,物体が動かないギリギリのとき,$f=\mu N$である.ただし,$\mu$は静止摩擦係数といい,このときの摩擦力を最大静止摩擦力という.
このように,
- 力を加えても動かない場合
- 力を加えると動く場合
で「摩擦力」の表し方は変わります.
また,最大静止摩擦力がはたらくとき,物体は静止もしているので,$f=F$でも$f=\mu N$でもあります.
つまり,$F=\mu N$となります.
摩擦力は物体が動くときと動かないときで考え方が変わります.物体が動かないときの摩擦力は力のつりあいを考えればすぐに分かり,物体が動くときの摩擦力は垂直抗力に比例します.
張力
それほど弾力のない糸が物体を引く力を張力といいます.
上図では,
- $\ve{T}$が物体Aにはたらく張力
- $\ve{T’}$が物体Bにはたらく張力
です.
「張力」も垂直抗力と同じく,大きさを式でパッと表せるようなものではなく,大きさは状況によって様々で,多くの場合
- 力のつりあい
- 運動方程式
などから求めます.
張力については,次の事実が大切です.
ピンと張られた糸の両端で張力の大きさは等しく,向きは逆向きである.
この事実から,上の$\ve{T}$と$\ve{T’}$の間には$\ve{T}=-\ve{T’}$の関係が成り立ちます.
また,滑車に糸を通した場合の張力を考えることも多いです.この場合については,以下の記事で具体例を用いて説明しています.
高校物理で考える張力では,単にピンと張った糸だけではなく,滑車を通して物体を引く張力も考えます.滑車があっても,基本的な事実さえ知っておけば悩むことなく張力を考えることができます.
弾性力
バネを水平な場所に置くとある長さで静止しますが,この長さをそのバネの自然長といいます.
バネは自然長より短くなると伸びようとする向きに力がはたらき,反対に自然長より長くなると縮もうとする向きに力がはたらきます.
このようにバネなどが物体を引き戻したり,押したりする力のことを弾性力といいます.
上図では,$\ve{f}$が弾性力です.
さて,「弾性力」の大きさは次のように表せます.
自然長から長さが$x[\mrm{m}]$変化したバネによる弾性力の大きさは$kx[\mrm{N}]$と表せる.ただし,$k[\mrm{N/m}]$はバネ定数といい,バネに固有である.
なお,この公式をフックの法則といいいます.
バネ定数$k$が大きいと,少しの伸び縮み$x$で大きな弾性力が得られます.
つまり,押し返す力/引き戻す力が硬いバネほど,バネ定数が大きいといえますね.
この意味で,バネ定数はバネの“強さ”ということができます.
弾性力は伸び縮みの長さに比例します.つまり,バネは伸ばせば伸ばすほど,縮めれば縮めるほど大きな弾性力を発揮します.この記事では,具体例からフックの法則の使い方をみます.
浮力
例えば,水に木片を放り込むと木片は水に浮かびます.このように流体(液体や気体)が物体を押し上げる力のことを浮力と言います.
さて,液体に物体を沈めるとき,浮力は以下のようになります.
[液体中の浮力] 重力加速度を$g[\mrm{m/s^2}]$とする.密度$\rho[\mrm{kg/m^3}]$の液体に物体を沈める.体積$V[\mrm{m^3}]$の物体が全て液面下に沈んでいるとき,物体が液体から受ける浮力の大きさは$\rho Vg[\mrm{N}]$である.
また,「浮力」の向きはです.
なお,$\rho$はギリシャ文字で「ロー」と読みます.
液体の密度は$\rho[kg/m^3]$で,物体が体積$V[m^3]$沈んでいるので,$\rho V[kg]$は物体が押しのけた液体の質量です.
したがって,$\rho Vg[\mrm{N}]$は「物体が押しのけた液体にはたらく重力」に等しいですね.
この事実は[アルキメデスの原理]と呼ばれます.
つまり,以下の事実が成り立ちます.
[アルキメデスの原理] 物体が流体中にあるとき,「物体が押しのけた流体の重さ」と同じ大きさの力を受ける.
さて,ヘリコプターはプロペラを回すことで宙に浮きますが,実はこれも浮力と呼びます.
高校物理で扱う浮力は液体に物体を沈める場合に限られますが,[アルキメデスの原理]はヘリコプターが浮く場合などにも適用できる原理です.
高校物理では,液体中の浮力が扱えれば十分ではありますが,[アルキメデスの原理]を知っていれば自分で公式が導けるので,知っておいても損はないでしょう.
浮力を考えるためには,まず「密度」を理解する必要があります.この記事では,浮力の考え方を説明した後,液体に物体を浮かべたとき,液体に物体を完全に沈めたときの浮力を具体的に考えます.
【次の記事:力の基本2|力のつりあいとその例】
力がつり合っているとは,物体にはたらく力の合力が0であることをいいます.力がつり合っているとき,静止している物体は静止し続け,運動している物体は等速直線運動をします.また,逆に静止し続ける物体や等速直線運動を続ける物体にはたらく力はつりあっています.