物理では,対象の物体を
- 「大きさがない物体(質点)」として考える場合
- 「大きさがある物体(剛体)」として考える場合
の2つがあります.
例えば,小球が坂を転がったり,落下したりする場合には小球の大きさはないものとして「質点」として扱います.
一方,棒を壁に立てかけた場合などには,物体を「質点」として考えずに,物体は大きさをもつ「剛体」であるとして考える必要があります.
この記事では,「質点と剛体」を説明し,剛体の回転を表す「力のモーメント」を説明します.
一連の記事はこちら
【剛体の運動1|物体の回転を考えるときは「力のモーメント」】←今の記事
【剛体の運動2|剛体にはたらく力の合成の4パターン】
【剛体の運動3|剛体にはたらく力のつりあいとその例】
【剛体の運動4|物体の重力はドコにはたらく?重心とは!?】
質点と剛体
たとえば,実際にボールを投げ上げるとき,空気抵抗など様々な要因が絡まり合って運動をしますが,それらを全て加味して考えると複雑になりすぎるため,「空気抵抗は考えないものとする」などと状況を簡単にして考えます.
このように,物理(に限らず科学全般)では,状況を簡略化して考えやすくすることをよく行います.
物体の運動を考える際には,物体を考えるときに物体の大きさを考えずに「物体には大きさがない」とすることがよくあります.
このように,「質量があり,大きさがない物体」として考えられた物体を質点といいます.
質点はその名の通り「質量のある点」ですから,大きさを考えていないことは名前からも分かりますね.
一方,たとえば壁に立てかけた棒が倒れる時などは棒が回転します.この場合,物体を点とみなすと物体の回転を表現することができないため,物体を質点と考えるのは不適当です.
すなわち,回転を表すためには物体の大きさは無視できず,物体の大きさを無視することはできません.
このように,「質量があり,大きさもある物体」として考えられた物体を剛体といいます.
回転を考える際には,物体の大きさを無視できないので,剛体として考えることになる.
力のモーメント
物体の回転を考える際には力のモーメントを用います.
小学生風に言えば,「てこの原理」というのがありますが,あれはまさに「力のモーメント」を用いています.
力の作用線
力のモーメントの説明をするためには,力の作用線を理解しておきましょう.
[力の作用線] 力$\ve{F}$の「力の作用線」とは,$\ve{F}$の作用点を通り,$\ve{F}$に平行な直線のことをいう.
すなわち,力$\ve{F}$の作用点を通り,$\ve{F}$に平行な直線を「力$\ve{F}$の作用線」というわけですね.
力のモーメント
それでは,力のモーメントの
- 大きさ
- 向き
を定義しましょう.
力のモーメントの大きさ
[力のモーメントの大きさ] 力$\ve{F}$と点Aを考える.点Aと力$\ve{F}$の作用線の距離を$\ell[\mrm{m}]$,力$\ve{F}$の大きさを$F[\mrm{N}]$とする.
このとき,点Aの周りの$\ve{F}$の力のモーメントの大きさを$F\ell[\mrm{Nm}]$と定める.
力のモーメントの大きさ$F\ell[\mrm{Nm}]$について少し考えましょう.
力の大きさ$F$が大きいほど,物体を回転させる能力が大きいことは容易に想像できますが,$\ell[\mrm{m}]$がかけられていることについては,以下のように理解できます.
例えば,レバー式のドアノブを回すとき,回転軸の近くを持ってドアノブを回すよりも,回転軸から遠くを持ってドアノブを回す方が,軽くドアノブを回すことができますね.
これは,回転軸よりも遠いところに力を加えた方が,力のモーメントが大きいということに他なりません.
こう考えると,力のモーメントの大きさ$F\ell[\mrm{Nm}]$が,力$\ve{F}$の作用線と点Aの距離$\ell$は大きいほど力のモーメントが大きくなる,ということで直感に合いますね.
力のモーメントの向き
さて,回転には時計回りと反時計回りがありますから,これについて以下のように定義します.
[力のモーメントの向き] 力$\ve{F}$と点Aを考える.力$\ve{F}$が点Aに関して,
- 物体を反時計回りに回転させるとき,力のモーメントの向きを正
- 物体を時計回りに回転させるとき,力のモーメントの向きを負
と定める.
単に
- 「反時計回り」の回転の向きを正
- 「時計回り」の回転の向きを負
と名付けただけです.
以上から,「力のモーメント」は
- 力の大きさと向き
- 力の作用点
- 任意の点
を指定して初めて考えることができますね.
例
重力加速度を$g[\mrm{m/s^2}]$とします.天秤の左側に$m[\mrm{kg}]$の物体を軸から$x[\mrm{m}]$の位置に吊るします.
このとき,物体にはたらく力は鉛直下向き,大きさ$mg[\mrm{N}]$の重力のみです.
このときの,回転軸を中心とする重にはたらく重力による力のモーメントは
- 重りによる重力の大きさは$mg[\mrm{N}]$で,作用線は鉛直方向なので回転軸との距離は$x[\mrm{m}]$です.よって,力のモーメントの大きさは$mgx[\mrm{Nm}]$となります.
- 天秤は左が下がりますから,回転軸に関して反時計回りすることになります.よって,力のモーメントの向きは正です.
このように,力のモーメントを考えるときには,必ず「大きさ」と「向き」を考えるようにしてください.
【次の記事:剛体の運動2|剛体にはたらく力の合成の4パターン】
剛体に複数の力がはたらいているときには,単に力の和を考えるだけではなく,作用点も考える必要があります.剛体にはたらく力の合成を,4パターンに分けてまとめます.
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