剛体にはたらく力のつりあいの2条件|例題で考え方を解説

剛体
剛体

質点にはたらく力がつりあっているとは合力の大きさが0であることをいい,静止している物体にはたらく力がつり合っていれば,その物体は静止し続けるのでした.

このように質点にはたらく力がつりあっていると,あたかも力がはたらいていないかのように質点は運動します.

一方,物体の大きさを考える剛体については,合力の大きさが0であるだけでは静止している物体が静止し続けるわけではありません.

例えば,大きさが等しく逆向きの2力を考えると合力の大きさは0ですが,この2力の作用線が異なる場合には物体は静止せず回転します(力のモーメントの和が0でない).

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この記事では

  • 剛体にはたらく力のつりあい
  • 剛体にはたらく力のつりあいの具体例

を順に説明します.

剛体にはたらく力のつりあい

質点での力のつりあいは「加わるすべての力の合力の大きさが0であること」を言いましたが,剛体の場合には回転も考慮する必要があります.

そこで,剛体にはたらく力のつりあいは次のように定義されます.

[剛体にはたらく力のつりあい]剛体にはたらく力$\ve{F}_1,\dots,\ve{F}_n$がつりあっているとは,次を同時に満たすことをいう.

  1. $\ve{F}_1+\dots+\ve{F}_n=\ve{0}$
  2. $\ve{F}_1,\dots,\ve{F}_n$の力のモーメントの和が0

条件(1)は「合力の大きさが0である」という質点の場合と同じ条件ですね.

剛体では加えて「回転しない条件」である条件(2)も成り立って,力がつりあっているといいます.

剛体にはたらく力のつりあいについては,以下が大切です.

剛体にはたらく力がつりあっているとき,剛体が静止していれば静止し続ける.逆に,剛体が静止していれば静止し続けるとき,剛体にはたらく力はつりあっている.

このことは,質点にはたらく力のつりあいの場合と同じなので,質点の場合が分かっていればその類推で理解できますね.

剛体にはたらく力のつりあいの具体例

具体例を考えます.

洗い床と滑らかな壁があるとし,ここに質量$m[\mrm{kg}]$の棒を床との角度が$\theta$となるように壁に立てかけると棒が静止した.

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このとき,

  • 壁からの垂直抗力の大きさ$F_1[\mrm{N}]$
  • 床と物体の摩擦力の大きさ$F_2[\mrm{N}]$
  • 床からの垂直抗力の大きさ$F_3[\mrm{N}]$

を求めよ.ただし,重力加速度の大きさを$g[\mrm{m/s^2}]$とする.

棒にはたらく

  • 壁からの垂直抗力(大きさ$F_1[\mrm{N}]$)
  • 床と物体の摩擦力(大きさ$F_2[\mrm{N}]$)
  • 床からの垂直抗力(大きさ$F_3[\mrm{N}]$)

をそれぞれ$\ve{F}_1,\ve{F}_2,\ve{F}_3$としましょう.また,重力の大きさは$mg[\mrm{N}]$ですね.

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棒は静止しているので,剛体としての棒にはたらく力がつりあっているので,これらの力について[剛体にはたらく力のつりあい]の条件から等式が得られますね.

合力の大きさが0

[剛体にはたらく力のつりあい]の条件(1)から,剛体である棒にはたらく力の合力の大きさは0です.そこで

  • 鉛直方向の成分
  • 水平方向の成分

に分けて考えると,

    \begin{align*}\begin{cases}mg=F_3\\F_1=F_2\end{cases}\end{align*}

が成り立っていることが分かりますね.

力のモーメントの和が0

[剛体にはたらく力のつりあい]の条件(2)から,棒の接地している点の周りでの力のモーメントの和は0となっています.

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まず,床からの垂直抗力と摩擦力の作用線はいずれも回転軸を通るので,この2本の作用線と回転軸の距離は0ですから,

  • $\ve{F}_2$の力のモーメントは0
  • $\ve{F}_3$の力のモーメントは0

です.ここで,棒の長さを$\ell$とすると,

  • 重力の力のモーメントは正(反時計回り)で,大きさは$\dfrac{1}{2}mg\ell\cos{\theta}$
  • 垂直抗力$\ve{F}_1$の力のモーメントは負(時計回り)で,大きさは$F_1\ell\sin{\theta}$

となりますね.

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以上の全ての力のモーメントの和が0なので,

    \begin{align*} &0+0+\dfrac{1}{2}mg\ell\cos{\theta}-F_1\ell\sin{\theta}=0 \\\iff& mg=2F_1\tan{\theta} \end{align*}

が成り立っていることが分かりますね.

剛体にはたらく力のつりあい

以上から,3つの等式

    \begin{align*}\begin{cases} mg=F_3\\ F_1=F_2\\ mg=2F_1\tan{\theta} \end{cases}\end{align*}

が得られました.これは3つの未知数$F_1,F_2,F_3$の連立方程式になっており,方程式が3本なので解くことができますね.

実際にこれを解いて

    \begin{align*}F_1=F_2=\dfrac{mg}{2\tan\theta},\quad F_3=mg\end{align*}

が得られます.

結果を見れば,棒の長さ$\ell[\mrm{m}]$は$F_1$, $F_2$, $F_3$に全く関係がありませんね.

このことから質量$m[\mrm{kg}]$と立てかける角度$\theta$が同じなら,長い棒であろうが短い棒であろうが$F_1$, $F_2$, $F_3$は同じものになるということが分かります.

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