坂を物体が転がる運動などでは,物体は大きさをもたない「質点」として考えることはよくあります.
一方で,「壁に立てかけた棒が倒れる」など,物体の回転が関わる運動では物体の大きさを無視できず,物体は大きさをもつ「剛体」として考えることになるのでした.
前回の記事では,剛体にはたらく力がどれくらい物体を回転させるかを測る「力のモーメント」を考えました.
ただし,前回の記事で考えたのは1つの剛体に1つの力がはたらく場合で,1つの剛体に複数の力がはたらいているときには単に力をベクトルとして合成するだけではうまくいきません.
というのは,力のモーメントを考えるときは,
- 力の大きさと向き
- 力の作用点
- 回転の中心
が大切で,特に力の作用点は単なる単なるベクトルの和を考えるだけでは分からないからです.
この記事では,剛体にはたらく力の合成を
- 平行でない2つの力
- 同じ向きの2つの力
- 逆向きの異なる大きさの2つの力
- 逆向きの等しい大きさの2つの力
の4パターンに分けて説明します.
一連の記事はこちら
【剛体の運動1|物体の回転を考えるときは「力のモーメント」】
【剛体の運動2|剛体にはたらく力の合成の4パターン】←今の記事
【剛体の運動3|剛体にはたらく力のつりあいとその例】
【剛体の運動4|物体の重力はドコにはたらく?重心とは!?】
平行でない2力の合成
剛体にはたらく2力$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行でないときには,「合力$\ve{F}$」と「合力$\ve{F}$の作用点」は次のようになります.
[力の合成1] 剛体にはたらく力$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行でないとき,これら2力を合成した力$\ve{F}$は次のようになる.
- 作用点:$\ve{F}_1$の作用線と$\ve{F}_2$の作用線の交点
- 力の向き,大きさ:$\ve{F}=\ve{F}_1+\ve{F}_2$
力が平行でなければ,力$\ve{F}_1$の作用線と力$\ve{F}_2$の作用線が交点をもちますね.
合力$\ve{F}$の作用点はこの作用線の交点となります.
また,力$\ve{F}$は単純に$\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$の和となります.
このように,力$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行でない場合には,簡単に合力$\ve{F}$と$\ve{F}$の作用点が分かります.
平行な2力の合成
次に,平行な2力$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が剛体にはたらいているときの力の合成を説明します.
$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行な場合には作用線が交点を持ちませんから,上で考えた$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行でない場合と同様にはいきません.
この場合は
- 同じ向きの2つの力
- 逆向きの異なる大きさの2つの力
- 逆向きの等しい大きさの2つの力
のパターンがあります.
2力が同じ向きのとき
剛体にはたらく2力が平行で同じ向きのとき,「力$\ve{F}$」と「力$\ve{F}$の作用点」は次のようになります.
[力の合成2] 剛体にはたらく力$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行で同じ向きのとき,これら2力を合成した力$\ve{F}$は次のようになる.
- 作用点:$\ve{F}_1$の作用点と$\ve{F}_2$の作用点を$|\ve{F}_2|:|\ve{F}_1|$に内分する点
- 向き,大きさ:$\ve{F}=\ve{F}_1+\ve{F}_2$
例えば,$|\ve{F}_1|$が$|\ve{F}_2|$に比べて非常に大きいときを考えれば,剛体にはたらく力はほとんど$\ve{F}_1$だけですね.
こう考えると,強い力の方に作用点が寄ることは自然ですね.
ということで,$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行で向きが同じときは,$ve{F}_1$の作用点と$ve{F}_2$の作用点を結んだ線分を逆比に($|\ve{F}_2|:|\ve{F}_1|$に)内分する点が作用点となります.
また,力$\ve{F}$は単純に$\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$の和となります.
2力が逆向きで大きさが異なるとき
剛体にはたらく2力が平行で逆向きで大きさが異なるとき,「力$\ve{F}$」と「力$\ve{F}$の作用点」は次のようになります.
[力の合成3] 剛体にはたらく力$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行で逆向きで大きさが異なるとき,これら2力を合成した力$\ve{F}$は次のようになる.
- 作用点:$\ve{F}_1$の作用点と$\ve{F}_2$の作用点を$|\ve{F}_2|:|\ve{F}_1|$に外分する点
- 向き,大きさ:$\ve{F}=\ve{F}_1+\ve{F}_2$
※図は$|\ve{F}_1|>|\ve{F}_2|$の場合.
2力が平行で同じ向きのときと似ていますが,逆向きの場合の作用点は外分になります.
合成された力$\ve{F}$は$\ve{F}=\ve{F}_1+\ve{F}_2$ですが,$\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$は逆向きなので,$\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$の大きい方と同じ向きになりますね.
大きさは$|\ve{F}_1|$と$|\ve{F}_2|$の大きい方から小さい方を引いたものになります.
2力が逆向きで大きさが等しいとき
剛体にはたらく2力が平行で逆向きで大きさが等しいとき,2力は剛体をただ回転させる作用のみとなります.
このときの2力のことを偶力といい,偶力の剛体を回転させる強さのことを偶力のモーメントといいます.
偶力のモーメントは次のようになります.
[偶力] 剛体にはたらく力$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$が平行で逆向きで大きさが等しいとき,力$\ve{F}_1$の作用線と力$\ve{F}_2$の作用線の距離を$\ell[\mrm{m}]$とし,$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$の大きさを$F[\mrm{N}]$とすると,偶力のモーメントは$F\ell[\mrm{Nm}]$である.
偶力は思い出したように出題されることがあるので,偶力モーメントの求め方は覚えておいてください.
まとめ
以上をまとめましょう.
以下,$\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$が剛体にはたらくとします.
- $\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$が平行でないとき
- 作用点:$\ve{F}_1$の作用線と$\ve{F}_2$の作用線の交点
- 力:$\ve{F}=\ve{F}_1+\ve{F}_2$
- $\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$が平行/同じ向きのとき
- 作用点:$\ve{F}_1$の作用点と$\ve{F}_2$の作用点を$|\ve{F}_2|:|\ve{F}_1|$に内分する点
- 力:$\ve{F}=\ve{F}_1+\ve{F}_2$
- $\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$が平行/逆向き/大きさが異なるとき
- 作用点:$\ve{F}_1$の作用点と$\ve{F}_2$の作用点を$|\ve{F}_2|:|\ve{F}_1|$に外分する点
- 力:$\ve{F}=\ve{F}_1+\ve{F}_2$
- $\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$が平行/逆向き/大きさが等しいとき
- 偶力である
- 偶力のモーメントは$Fl[Nm]$である($\ell[\mrm{m}]$は$\ve{F}_1$の作用線と$\ve{F}_2$の作用線の距離,$F[\mrm{N}]$は$\ve{F}_1$, $\ve{F}_2$の大きさ).
1〜3での合成された力はいつでも$\ve{F}_1+\ve{F}_2$であることに気がつきますね.
また,作用点がどうなるのかということも,1の$\ve{F}_1$と$\ve{F}_2$が平行でない状態であればいたって自然ですから,あとは2と3を混同しなければ大丈夫でしょう.
また,偶力のモーメントは簡単に求められますね.
【次の記事:剛体の運動3|剛体にはたらく力のつりあいとその例】
物質の大きさを考えない質点の場合には,単純に合力のベクトルが$\ve{0}$であるとき,力がつり合っているといいます.一方で,剛体の場合は単純に合力のベクトルが$\ve{0}$であっても,物体が回転することがあります(偶力の場合など).物体が回転もしないような剛体にはたらく力のつりあいを考えます.
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