前回の記事では
- イオン化傾向を利用して電子$\mrm{e^-}$を取り出す装置を電池という
- ビリビリと電気を流すことで分解が起こる化学反応を電気分解という
ことを説明しました.
電池は組み立てれば勝手に電気が流れます.このとき,電子$\mrm{e^{-}}$を導線に送り出す方の極を負極,電子$\mrm{e^{-}}$を導線に送り出す方の極を負極というのでした.
一方,電気分解は自身だけでは反応は進まず,必ず電池に接続して電気を流す必要があります.このとき,
- 電池の正極と繋いだ方を陽極
- 負極と繋いだ方を陰極
というのでした.
電池は能動的な反応,電気分解は受動的な反応と言えることを思い出しておきましょう.
今回の記事では,電気分解における
- 陽極の2パターンの反応
- 陰極の2パターンの反応
の全4パターンをそれぞれ解説します.
「電池と電気分解」の一連の記事
陽極反応の2つのパターン
まずは陽極の反応から解説します.
結論から言えば,
- 電極が金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$以外のとき,電極が陽イオンになって溶ける.
- 電極が金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$のとき,
- 溶液中にハロゲンが含まれていれば,酸化されてハロゲンが生じる.
- 溶液中にハロゲンが含まれていなければ,酸素$\mrm{O_2}$が生じる.
となります.
さて,冒頭で説明したように,陽極とは次のように決まる電気分解の極だったことを思い出しておきましょう.
電気分解において「電池の正極とつながっている方の電極」を陽極という(下図の$+$側の電極).
このため,陽極は導線に電子$\mrm{e^-}$を放出しますね.詳しくは前回の記事を参照してください.
さて,陽極での反応は陽極の素材が
- 金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$でないとき
- 金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$のとき
で反応が変わります.
陽極が金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$でないとき
陽極が金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$のいずれでもなければ,電極が酸化されて陽イオンとなって溶け出します.
つまり,金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$くらい陽イオンになりにくい素材でなければ,電極自体から電子$\mrm{e^-}$が抜かれ陽イオンにされてしまうというわけですね.
たとえば,陽極に銅$\mrm{Cu}$を用いると,
の反応が起こります.他にも,陽極に亜鉛$\mrm{Zn}$を用いると,
の反応が起こります.
金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$は「高級なもの」と考えれば覚えやすいと思います.
「金$\mrm{Au}$」も「白金(プラチナ)$\mrm{Pt}$」も高級品ですね.また,炭素$\mrm{C}$はダイヤモンド$\mrm{C}$からの連想です.
陽極が金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$のとき
陽極が金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$のいずれかならば,溶液に含まれているイオンが酸化されます.
金$\mrm{Au}$,白金$\mrm{Pt}$,炭素$\mrm{C}$はかなり陽イオンになりにくいため,電極ではなく溶液中のイオンが酸化されるわけですね.
溶液中のイオンは「ハロゲン化物イオン($\mrm{Cl^-}$, $\mrm{I^-}$など)が含まれているかどうか」が鍵になることが多いです.
溶液にハロゲン化物イオンが含まれているとき
ハロゲン化物イオンはとても酸化されやすいので,溶液中にハロゲン化物イオンが含まれている場合にはハロゲン化物イオンが酸化されます.
たとえば,溶液中に塩化物イオン$\mrm{Cl^-}$が含まれていれば,
の反応が起こりますし,ヨウ化物イオン$\mrm{I^-}$が含まれていれば,
の反応が起こります.
溶液に酸化されにくいイオンしか含まれていないとき
ハロゲン化物イオンのような酸化されやすいイオンが含まれていないときは,酸素$\mrm{O_2}$が発生します.
酸化されにくいイオンは,たとえば
- 硝酸イオン$\ce{NO3^-}$
- 硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$
- リン酸イオン$\ce{PO4^3-}$
などのことです.
これらが酸化されにくい理由は,それぞれに含まれる窒素$\mrm{N}$,硫黄$\mrm{S}$,リン$\mrm{P}$の酸化数が高く,それ以上酸化できないことにあります.
それ以上酸化できないような元素は「最高酸化数に達している」などと言います.
酸化数の求め方については,以下の記事を参照してください.

酸化数は8つの原則と2つの例外で求める
このときの半反応式は
- 溶液が強塩基でない場合
- 溶液が強塩基の場合
と溶液の塩基性の強さにより半反応式は異なりますが,どちらの反応でも酸素$\mrm{O_2}$が発生していますね.
強塩基の場合は,水酸化物イオン$\ce{OH-}$が溶液中に多量に存在し,水酸化物イオン$\mrm{OH^-}$は酸化されやすいので,$\mrm{OH^-}$から酸素$\mrm{O_2}$が発生していることに注意してください.
一方,強塩基でない場合は,$\mrm{OH^-}$が溶液中に少ないので,水$\mrm{H_2O}$から直接酸素$\mrm{O_2}$が発生していますね.
陰極反応の2つのパターン
次に陽極の反応から解説します.
結論から言えば,
- 溶液中にイオン化傾向の小さい金属のイオン($\mrm{Cu^{2+}}$, $\mrm{Ag^+}$など)が含まれているとき,これらは還元されて析出する($\mrm{Cu}$, $\mrm{Ag}$などが生じる).
- 溶液中にイオン化傾向の小さい金属のイオン($\mrm{Cu^{2+}}$, $\mrm{Ag^+}$など)が含まれていないとき,水素$\mrm{H_2}$が生じる.
となります.
さて,冒頭で説明したように,陰極とは次のように決まる電気分解の極だったことを思い出しておきましょう.
電気分解において「電池の負極とつながっている方の電極」を陰極という(下図の$-$側の電極).
このため,陽極は導線から電子$\mrm{e^-}$を受け取りますね.詳しくは前回の記事を参照してください.
実は陰極の反応は微妙なところがあるのですが,高校化学ではそのような微妙な場合が出題されることはほとんどないので,この記事では典型的な内容のみ扱います.
さて,陽極での反応は
- イオン化傾向の小さい金属イオンが含まれているとき
- イオン化傾向の小さい金属イオンが含まれていないとき
で反応が変わります.
なお,以前の記事で説明したように,イオン化傾向とは「陽イオンへのなりやすさ」のことでした.
つまり,「イオン化傾向の小さい金属の陽イオン」とは「陽イオンになりにくい金属の陽イオン」のことをいうわけですね.
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イオン化傾向から電流の向きを判断する
溶液にイオン化傾向の小さい金属の陽イオンが含まれているとき
「イオン化傾向の小さい金属の陽イオン」は簡単に還元されて,普通の金属に戻ろうとします.
ここでの「イオン化傾向の小さい金属」として典型的なものは
- 銅$\mrm{Cu}$
- 銀$\mrm{Ag}$
が挙げられます.
イオン化傾向の大きい順に金属を並べたものをイオン化列といい,次のようになることを思い出しておきましょう.
確かに銅$\mrm{Cu}$と銀$\mrm{Ag}$はいずれもイオン化傾向が小さい方ですね.
たとえば,溶液中に銅イオン$\mrm{Cu^{2+}}$が含まれていれば,
の反応が起こりますし,溶液中に銀イオン$\mrm{Ag^+}$が含まれていれば,
の反応が起こります.それぞれ単体の銅$\mrm{Cu}$,銀$\mrm{Ag}$が生成していることに注目してください.
このように,溶液中のイオンなどが固体となって生成されることを析出といいます.そのため,上の場合はそれぞれ「銅$\mrm{Cu}$が析出した」「銀$\mrm{Ag}$が析出した」などと表現します.
溶液にイオン化傾向の小さい金属の陽イオンが含まれていないとき
「イオン化傾向の大きい金属」は陽イオンでいる方が安定なので単体の金属に戻ろうとはせず,水素$\mrm{H_2}$が発生します.
「イオン化傾向の大きい金属の陽イオン」として典型的なものは
- アルカリ金属
- アルカリ土類金属
- アルミニウムAl
が挙げられます.

性質,製法,反応に関する7つの基本事項
このときの半反応式は
- 強酸でない場合
- 強酸の場合
と溶液の酸性の強さにより半反応式は異なりますが,どちらの反応でも水素$\mrm{H_2}$が発生していますね.
強酸の場合は,水素イオン$\mrm{H^+}$が溶液中に多量に存在し,水素イオン$\mrm{H^+}$は還元されやすいので,$\mrm{H^+}$から水素$\mrm{H_2}$が発生していることに注意してください.
一方,強酸でない場合は,$\mrm{H^+}$が溶液中に少ないので,水$\mrm{H_2O}$から直接水素$\mrm{H_2}$が発生していますね.
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