直角三角形の1つの鋭角を$\theta$としたとき,3種類の辺の比を
と名付けたものを三角比というのでした.
三角形の内角の和は常に$180^\circ$だったので,直角三角形の1つの鋭角$\theta$は$0^{\circ}<\theta<90^{\circ}$の範囲しか動きません.
したがって,直角三角形を考えていたのでは,例えば
- $\sin{120^\circ}$のような$90^\circ$を超える$\theta$
- $\sin{-30^\circ}$のような負の$\theta$
で$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えることができません.
そこで,単位円を使うことで$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合にも$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$が定義できることを以前の記事で説明しました.
この記事では,さらに広く全ての実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を定義します.
このように全ての実数$\theta$に対して定義された$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を三角関数といいます.
「三角比」の一連の記事
「三角関数」の一連の記事
三角関数の準備
三角関数を定義するために,いくつか準備をします.
偏角
角度に向きをつけたものを偏角といいます.
$xy$平面上の原点$\mrm{O}$とは異なる点$\mrm{P}$に対して,$x$軸の正方向からベクトル$\Ve{OP}$への有向角を($x$軸正方向からの)点$\mrm{P}$の偏角という.ただし,反時計回りを正とする.
例えば
- 負の偏角は時計回りの有向角
- $360^\circ$以上の偏角は1周以上の有向角
ということですね.
例1
下図の点$\mrm{Q}$の偏角は$-40^{\circ}$です.
例2
下図の点$\mrm{R}$の偏角は$390^\circ$です.
三角関数の定義
偏角を定義してしまえば,あとは三角比を$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$なる$\theta$にまで拡張したのと同じ考え方で,任意の実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を定義することができます.

角度が90°以上の三角比に拡張したい!
三角関数の定義
三角関数の定義は以下の通りです.
$\theta$を実数とする.このとき,偏角$\theta$の単位円周上の点$\mrm{P}$について,
- $\mrm{P}$の$x$座標を$\cos{\theta}$
- $\mrm{P}$の$y$座標を$\sin{\theta}$
と定義する.
また,$\cos{\theta}\neq0$のとき,$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$と定義する.
偏角を定義したことによって,任意の実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えることができるようになりました.
このように,単位円を使って任意の実数$\theta$に対して定義された$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を三角関数といいます.
$\cos{\theta}\neq0$のときのみ$\tan{\theta}$を定義するのは,数学において分母が$0$であってはならないからですね.
つまり,定義の点$\mrm{P}$の$x$座標が$\cos{\theta}$だったので,点$\mrm{P}$が$y$軸上にあるとき($\theta=\pm90^\circ,\pm270^\circ,\dots$のとき),$\tan{\theta}$は定義できないことになります.

0で割るのは反則!ダメな理由を説明
$\tan$の図形的意味
$xy$平面上の直線$x=1$と直線$\mrm{OP}$の交点の$y$座標が$\tan\theta$となります.
これは三角比を$0^\circ\le\theta\le180^\circ$に拡張したときと同じですね.
4つの関係式
$\sin$, $\cos$, $\tan$に関する4つの関係式も三角比の場合と同様に成り立ちます.
実数$\theta$について,
- $\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$
- $\cos^{2}{\theta}+\sin^{2}{\theta}=1$
- $1+\tan^{2}{\theta}=\dfrac{1}{\cos^{2}{\theta}}$
- $1+\dfrac{1}{\tan^{2}{\theta}}=\dfrac{1}{\sin^{2}{\theta}}$
の4つの関係式が成り立つ.
ただし,3つ目の公式は$\cos{\theta}\neq0$のときに,4つ目の公式は$\sin{\theta}\neq0$かつ$\tan{\theta}\neq0$のときに成り立つ.
これらの関係式の証明もやはり三角比を$0^\circ\le\theta\le180^\circ$に拡張したときと同じです.
これらの4つの関係式はそれぞれ
- $\tan$と$\cos$と$\sin$の関係式
- $\cos$と$\sin$の関係式
- $\cos$と$\tan$の関係式
- $\sin$と$\tan$の関係式
となっていることは意識しておきたいところです.
これが意識できていれば
- $\cos$から$\sin$を求めるときは公式$\cos^{2}{\theta}+\sin^{2}{\theta}=1$
- $\tan$から$\sin$を求めるときは公式$1+\dfrac{1}{\tan^{2}{\theta}}=\dfrac{1}{\sin^{2}{\theta}}$
といったように,どの公式を使うのがよいかは自然に見えてくるはずですね.
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