ベクトルの分野の中でも,[ベクトル方程式]は「何やらよく分からないもの」として敬遠されがちです.
また,[ベクトル方程式]の代わりに図形と方程式の知識を使えば解ける場合も多いため,存在感の薄いものとなってしまっています.
しかし,[ベクトル方程式]の考え方はシンプルですし,考え方を身に付けると便利なこともよくあります.
例えば「点$(2,2)$を通り,ベクトル$\pmat{1,2}$に垂直な直線の方程式」はものの数秒で表すことができます.
この記事では,
- [ベクトル方程式]の考え方
- [ベクトル方程式]の具体例
を説明します.
「ベクトル」の一連の記事
ベクトル方程式の考え方
まずはベクトル方程式の考え方を説明します.
図形の方程式
「図形と方程式」の分野では,直線や曲線の方程式を求めることがよくありますね.
$xy$平面上の2点$\mrm{A}(-2,0)$, $\mrm{B}(1,0)$に対して,$\mrm{AX}:\mrm{BX}=2:1$となる点Xが描く図形$C$の方程式を求めよ.
点Xが動く図形上の任意の点を$(x,y)$とする.$\mrm{BX}>0$, $\mrm{AX}>0$なので
となって,点Xが描く図形$C$の方程式は$4=(x-2)^2+y^2$である.なお,この方程式の描く図形は点$(2,0)$中心,半径2の円である.
このように,$xy$平面上の点Pが描く図形の方程式を求めたいときには,図形上の任意の点Xの座標を$(x,y)$とおいて$x$と$y$の関係式を求めれば良いわけですね.
なお,$xy$平面上の「グラフ」や「円の方程式」については,以下の記事を参照してください.
$x$と$y$の方程式が与えられたとき,その関係を$xy$平面上の「グラフ」として図示できますが,そもそも「グラフ」が何なのか説明できますか?この記事では,方程式が表すグラフの考え方を具体例を用いて説明しています.
$xy$平面上の円の方程式は2種類あります.この記事では,2種類の円の方程式の特徴と考え方を説明しています.
ベクトル方程式
ベクトル方程式も「同じく点が描く図形を式で表したい」という考え方が元になっています.
上の図形と方程式の考え方は$xy$平面のような座標上では強力ですが,座標が入っていないようなところでは考えることができませんね.
そこで,座標が入っていないような平面図形では,点が描く図形をベクトルの等式で表すことになります.
つまり,「$xy$平面上の図形であれば$x$と$y$の方程式で図形を表せるけど,座標が入っていない平面上の図形であれば座標がなくても問題なく使えるベクトルを使って図形を表そう」というわけですね.
上の例題では図形上の任意の点Pの座標を$(x,y)$とおいて$x$と$y$が満たす等式を図形の方程式と言うように,図形上の任意の点Pの位置ベクトルを$\ve{x}$とおいて$\ve{x}$が満たす等式をベクトル方程式と言います.
これがベクトル方程式の考え方です.
なお,位置ベクトルについては前回の記事を参照してください.
【ベクトル4|[位置ベクトル]と内分・外分に関するベクトル】
座標上のベクトルは計算が楽にできるのが嬉しいポイントでした.もし座標のないところでベクトルを考えても,座標での原点に相当する点を決めることで,ベクトルの計算が楽になることがあります.このようにして定まるベクトルを位置ベクトルといいます.
$xy$平面上では図形上の任意の点を$(x,y)$とおいて$x$と$y$の等式で図形を表すように,図形上の任意の点Pの位置ベクトルを$\ve{x}$とおいて$\ve{x}$の等式で図形を表すのがベクトル方程式である.
ベクトル方程式の具体例
それではベクトル方程式の具体例を考えましょう.
ベクトル方程式の求め方
まずは以下の問題を考えます.
次の図形のベクトル方程式を求めよ.
- 点$\mrm{P}(\ve{p})$を通り,ベクトル$\ve{a}$に垂直な直線$\ell_1$
- 点$\mrm{P}(\ve{p})$を通り,ベクトル$\ve{a}$に平行な直線$\ell_2$
- 2点$\mrm{A}(\ve{a})$, $\mrm{B}(\ve{b})$に対して,$\mrm{AX}:\mrm{BX}=2:1$を満たす点Xが描く図形$C$
(1) 直線$\ell_1$上の任意の点をXとし,Xの位置ベクトルを$\ve{x}$とする.
このとき,$\Ve{PX}=\ve{x}-\ve{p}$は直線$\ell_1$に平行なベクトルまたは零ベクトルであり,直線$\ell_1$は$\ve{a}$に垂直だから,
が直線$\ell_1$のベクトル方程式である.
(2) 直線$\ell_2$上の任意の点をXとし,Xの位置ベクトルを$\ve{x}$とする.
このとき,$\ve{x}-\ve{p}$は直線$\ell_1$に平行なベクトルまたは零ベクトルであり,直線$\ell_1$は$\ve{a}$に垂直だから,実数$k$を用いて
が直線$\ell_2$のベクトル方程式である.
(3) 直線$\ell_3$上の任意の点をXとし,Xの位置ベクトルを$\ve{x}$とする.
このとき,$\Ve{AX}=\ve{x}-\ve{a}$, $\Ve{BX}=\ve{x}-\ve{b}$だから,
が曲線$\ell_3$のベクトル方程式である.もしくは,さらに変形して
としても正しい.
(1)の$\ve{a}$のように直線$\ell_1$に垂直なベクトルを,直線$\ell_1$の法線ベクトルと言います.
また,(2)の$\ve{a}$のように直線$\ell_2$に平行なベクトルを,直線$\ell_2$の方向ベクトルと言います.
さて,この問題を解いてもあまり有り難みを感じる人は少ないかもしれませんが,座標上で考えたときに威力を発揮します.
座標上の方程式
ベクトル方程式は座標が入っていなくても図形を表すことができるという点で優れているわけですが,座標が入っていてももちろん扱うことができます.
いま考えた問題も以下のように座標上の問題に考えたとき,ベクトル方程式はとても便利なことが見てとれます.
次の$xy$平面上の図形の方程式を求めよ.
- 点$\mrm{P}(2,2)$を通り,ベクトル$\pmat{1\\2}$に垂直な直線$\ell_1$
- 点$\mrm{P}(2,2)$を通り,ベクトル$\pmat{1\\2}$に平行な直線$\ell_2$
- $xy$平面上の2点$\mrm{A}(-2,0)$, $\mrm{B}(1,0)$に対して,$\mrm{AX}:\mrm{BX}=2:1$となる点Xが描く図形$C$
(1) 直線$\ell_1$上の任意の点を$\mrm{X}(x,y)$とすると,$\Ve{PX}=\pmat{x-2\\y-2}$は直線$\ell_1$に平行なベクトルまたは零ベクトルであり,直線$\ell_1$は$\pmat{1\\2}$に垂直だから,
が直線$\ell_1$の方程式である.
(2) 直線$\ell_2$上の任意の点を$\mrm{X}(x,y)$とすると,$\Ve{PX}=\pmat{x-2\\y-2}$は直線$\ell_1$に平行なベクトルまたは零ベクトルであり,直線$\ell_1$は$\ve{a}$に垂直だから,実数$k$を用いて
だから,$k$を消去して
が直線$\ell_2$のベクトル方程式である.
(3) 直線$\ell_3$上の任意の点を$\mrm{X}(x,y)$とすると,$\Ve{AX}=\pmat{x+2\\y}$, $\Ve{BX}=\pmat{x-1\\y}$だから,
となって,最初の例と同様に曲線$\ell_3$の方程式は$4=(x-2)^2+y^2$となる.
(3)についてはあまり便利さは感じませんが,(1), (2)はベクトルの知識から簡単に方程式が得られていますね.
このように,$xy$平面上の方程式を求める際にも,一旦ベクトル方程式を考えて具体的に座標を代入するという方法が便利なことがよくあります.
次の記事では,ベクトルの和で表せる点について説明します.
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