直角三角形の1つの鋭角を$\theta$としたとき,3種類の辺の比を$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$と名付けたものを三角比というのでした.
このように,三角形の内角の和は常に$180^\circ$だったので,直角三角形の1つの鋭角$\theta$は$0^{\circ}<\theta<90^{\circ}$の範囲しか動きません.
したがって,直角三角形を考えていたのでは,例えば
- $\sin{120^\circ}$のような$90^\circ$を超える$\theta$
- $\sin{-30^\circ}$のような負の$\theta$
で$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えることができません.
そこで,実数$\theta$が$0^\circ<\theta<90^{\circ}$の範囲にない場合にも,$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$をうまく定義できないか」と以前の記事で$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合の$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の考え方を説明しました.
この記事では,さらに広く全ての実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を定義します.
このように,全ての実数$\theta$に対して定義された$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を三角関数といいます.
一連の記事はこちら
【三角比1|三角比って何?三角比の考え方から解説!】
【三角比2|sin,cos,tanの超重要な4つの関係式】
【三角比3|実は当たり前!?3つの(90°-θ)型の変換公式】
【三角比4|角度が90°以上の三角比はこう考える!】
【三角比5|(180°-θ)型の変換公式はめっちゃ簡単!】
【三角比6|【正弦定理】の使い方を具体例から考えよう】
【三角比7|【余弦定理】は「三平方の定理」の進化版!】
【三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】←今の記事
【三角関数2|偏角の変換公式は覚えるな!簡単に導く方法!】
【三角関数3|「ラジアン」の考え方,公式はシンプル!】
【三角関数4|有名角の三角関数は覚えるな!図で判断するコツ】
【三角関数5|三角関数のグラフは縦や横から見るべし!】
【三角関数6|三角関数の方程式や不等式は,点をグルグル回せ!】
【三角関数7|三角関数の加法定理の周辺を総まとめ】
【三角関数8|Asinθ+Bcosθの形は三角関数の合成!】
三角関数の準備
三角関数を定義するために,いくつか準備をします.
偏角
角度に向きをつけたものを偏角といいます.
$xy$平面上の原点Oとは異なる点Pに対して,$x$軸の正方向からベクトル$\Ve{OP}$への有向角を($x$軸正方向からの)点Pの偏角という.ただし,反時計回りを正とする.
「有向角」とは「向きのある角」という意味です.
ただし,偏角は
- $360^{\circ}$を超えるもの
- 負のもの
も考えることに注意してください.
負の偏角は時計回りの有向角で,$360^\circ$以上の偏角は1周以上の有向角です.
例1
下図の点Qは偏角$-40^{\circ}$です.
例2
下図の点Rは偏角$390^\circ$です.
向きの付いた角を偏角という.偏角は負のものや$360^\circ$を超えるものも考える.
三角関数の定義
偏角を定義してしまえば,あとは三角比を$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$なる$\theta$にまで拡張したのと同じ考え方で,任意の実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を定義することができます.
斜辺の長さが1の直角三角形を適切に$xy$平面に置くことによって,単位円上の第1象限の点の$x$座標,$y$座標がそれぞれ$\cos{\theta}$と$\sin{\theta}$とみることができます.したがって,単位円上の点を考えることで$0^\circ<\theta<90^\circ$の場合の三角比と矛盾することなく,$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合の三角比を定義することができます.
三角関数の定義
三角関数の定義は以下の通りです.
$\theta$を実数とする.このとき,偏角$\theta$の単位円周上の点Pについて,
- Pの$x$座標を$\cos{\theta}$
- Pの$y$座標を$\sin{\theta}$
と定義する.
また,$\cos{\theta}\neq0$のとき,$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$と定義する.
偏角を定義したことによって,負の角や$360^\circ$を超える角を定義したことによって,任意の実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えることができるようになりました.
このように,単位円を使って任意の実数$\theta$に対して定義された$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$といいます.
ただ,考え方は以前の記事で$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合の$\theta$に対して三角比を拡張したものとほぼ同じですね.
このように定義すれば,$\theta$が$0^{\circ}<\theta<90^\circ$の場合の三角比と矛盾することなく,どんな偏角$\theta$に対しても$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$が定義できるというわけです.
また,数学において分母が0であってはならないので,$\tan{\theta}$が定義できるのは$\cos{\theta}\neq0$の場合になります.
数学において0をかけたり0を割ったりしても値は0ですが,「0で割る」ことはできません.「0で割るとどうよくないのか」「0で割るとどのような不都合が起こるのか」を解説しています.
つまり,定義の点Cの$x$座標が$\cos{\theta}$だったので,点Cが$y$軸上にあるとき($\theta=\pm90^\circ,\pm270^\circ,\dots$のとき),$\tan{\theta}$は定義できないことになります.
$xy$平面上の$x$軸からの偏角が$\theta$の単位円上の点の$x$座標を$\cos{\theta}$, $y$座標を$\sin{\theta}$と定義する.また,$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$と定義する.
tanの図形的意味
また,やはり$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合の$\theta$に対して三角比を拡張したものと同様に,$xy$平面上の直線$x=1$と直線OPの交点の$y$座標が$\tan\theta$となります.
$\cos{\theta}\neq0$のとき,原点Oと点P$(\cos{\theta},\sin{\theta})$を通る曲線の傾きは$\tan{\theta}$だから,この直線は$x$軸方向に1進めば,$y$軸方向に$\tan{\theta}$進む.
よって,直線OPと単位円の点$(1,0)$での接線との交点の$y$座標が$\tan{\theta}$である.
4つの関係式
$\sin$, $\cos$, $\tan$に関する4つの関係式も三角比の場合と同様に成り立ちます.
実数$\theta$について,
- $\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$
- $\cos^{2}{\theta}+\sin^{2}{\theta}=1$
- $1+\tan^{2}{\theta}=\dfrac{1}{\cos^{2}{\theta}}$
- $1+\dfrac{1}{\tan^{2}{\theta}}=\dfrac{1}{\sin^{2}{\theta}}$
の4つの関係式が成り立つ.
ただし,3つ目の公式は$\cos{\theta}\neq0$のときに,4つ目の公式は$\sin{\theta}\neq0$かつ$\tan{\theta}\neq0$のときに成り立つ.
これらの関係式が成り立つことは,先ほども挙げた以下の記事の中で証明しています.
$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$の場合の$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$の4つの関係式の証明を行なっています.
この記事の中では$\theta$は$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$ですが,全ての実数$\theta$について定義される三角関数でも証明は全く同じです.
なお,この3つ目の関係式と4つ目の関係式は複雑な形をしており,頑張って覚えている人も多いのですが,実はほとんど瞬時に導出できることを以下の動画で解説しているので,参考にしてください.
この記事の解説動画もアップロードしています.
なお,この4つの関係式は
- $\tan$と$\cos$と$\sin$の関係式
- $\cos$と$\sin$の関係式
- $\cos$と$\tan$の関係式
- $\sin$と$\tan$の関係式
となっていることは意識しておきたいところです.
ですから,$\cos$から$\tan$を求めるときには3つめの公式,$\tan$から$\sin$を求めるときには4つめの公式といったように,「いまはどれが分かっているのか」「いまはどれが欲しいのか」を考えれば,どの公式を使うのがよいかは自然に見えてくるはずですね.
なお,以下の記事で証明してあるので,こちらを参考にしてください.
次の記事では,偏角が$\sin{(90^\circ-\theta)}$, $\sin{(\theta+90^\circ)}$, $\tan{(180^\circ-\theta)}$などとなると,$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を用いてどのように表せるかを説明します.
【次の記事:三角関数2|偏角の変換公式は簡単に導ける!導出のコツ!】
三角関数には,$\sin{(90^\circ-\theta)}=\cos{\theta}$や$\tan{(180^\circ-\theta)}=\tan{\theta}$といった偏角の変換公式があります.しかし,教科書に載っているようなこれらの偏角の変換公式を全て覚えようとするのは非常に非効率です.ほとんどの偏角の変換公式を覚えることなく,ものの数秒で導くことができます.