前回の記事では,関数$f(x)$の導関数の考え方と求め方を説明しました.
数学IIの微分法では,多項式の微分をメインに扱います.
多項式の微分は非常に分かりやすく,自然数$n$に対して$f(x)=x^n$とすると$f'(x)=nx^{n-1}$となります.
このように,多項式の導関数は公式として当たり前に使えるようになっておく必要があります.
この記事では,
- 多項式の導関数
- 導関数の性質
を説明し,最後に具体例を考えます.
一連の記事はこちら
【微分法1|グラフの接線はどう考える?[微分係数]を理解する】
【微分法2|微分係数から導関数へ!導関数の考え方をマスター】
【微分法3|多項式の導関数を求める公式と導関数の基本性質】←この記事
【微分法4|$y=f(x)$のグラフの描き方は4ステップでOK】
【微分法5|導関数から極大値,極小値を求める方法】
【微分法6|関数の最大値,最小値は微分を使うのが鉄板!】
【微分法7|グラフを使った[実数解の個数]と[不等式の証明]】
多項式の導関数
多項式$f(x)$の微分について,次の公式が成り立ちます.
[多項式の微分] 定数関数$f(x)$の導関数は$f'(x)=0$であり,$f(x)=x$の導関数は$f'(x)=1$である.
また,2以上の整数$n$に対し,$f(x)=x^{n}$の導関数は$f'(x)=nx^{n-1}$である.
なお,直感的に
- 定数関数は「平ら」なので,導関数が0
- $y=x$は「傾き1の直線」なので,導関数が1
であることはすぐに分かりますね.実際,以下の証明でも見るように,導関数の定義から簡単に導くことができます.
なお,導関数の定義式は同値な
と
の2通りありますが,どちらを用いても証明できるのでそれぞれの定義式で[多項式の微分]を証明してみましょう.
【ワンポイント数学5|2つの微分の定義式を図から理解しよう】
微分の2つの定義式は形が異なるように見えますが,実は全く同じことを言っています.この記事では,これら2つの定義式が同じであることを図を用いて説明しています.
証明1
導関数の定義$f'(x)=\lim\limits_{h\to0}\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}$により,[多項式の微分]を証明をします.
[1] $f(x)=C$ ($C$は定数)なら,
が成り立つ.
[2] $f(x)=x$なら,
が成り立つ.
[3] $n\geqq2$なら,二項定理より
だから,
が従う.
なお,[二項定理]については以下の記事を参照してください.
【場合の数7|二項定理を理解しよう!場合の数を使って導出!】
[二項定理]は$(x+y)^n$の展開に関する定理で,場合の数を学ぶことで証明できます.考え方が理解できていると,成り立つことは当たり前に分かり,[二項定理]の発展である[多項定理]まで覚えなくても自分で導けるようになります.
証明2
次に,導関数の定義$f'(x)=\lim\limits_{b\to x}\dfrac{f(x)-f(b)}{x-b}$により,[多項式の微分]を証明をします.
[1] $f(x)=C$ ($C$は定数)なら,
が成り立つ.
[2] $f(x)=x$なら,
が成り立つ.
[3] $n\geqq2$なら,因数分解の公式
より,
が従う.
なお,$a^n-b^n$の因数分解については以下の記事を参照してください.
【多項式の基本6|3次以上の展開と因数分解の公式の総まとめ】
$a^2-b^2=(a-b)(a+b)$や$a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2)$のように,$a^n-b^n$は必ず因数分解できて$a-b$を因数にもちます.このことはふとしたところで必要になるので,当たり前にしておきたいところです.
[多項式の微分]は当たり前にしておく.
導関数の基本性質
次に,[導関数の基本性質]を説明します.
[導関数の基本性質] 定数$k$, $\ell$と導関数をもつ関数$f(x)$, $g(x)$に対して,関数$kf(x)+\ell g(x)$の導関数は$kf'(x)+\ell g'(x)$である.
導関数の定義より
が成り立つ.
「何を当たり前なことを……」と思うかも知れませんが,
- 本来は$kf(x)+\ell g(x)$の導関数は$(kf(x)+\ell g(x))’$であって
- $f(x)$と$g(x)$を微分して定数倍して足し合わせた$kf'(x)+\ell g'(x)$とは別物
のはずです.ですから,これらが等しいかどうかは(証明は簡単なものの)証明なしに手放しに明らかとは言えないのです.
そこで「実はこの両者が等しい」と主張しているのが[導関数の性質]なわけですね.
また,[導関数の性質]で
- $\ell=0$
- $k=\ell=1$
とした次の形でもよく用いるので当たり前にしてください.
[導関数の基本性質’] 定数$k$と導関数をもつ関数$f(x)$, $g(x)$に対して,
- $kf(x)$の導関数は$kf'(x)$である.
- $f(x)+g(x)$の導関数は$f'(x)+g'(x)$である.
なお,この[導関数の性質]の証明には関数が多項式であるという仮定は用いていないので,この[導関数の性質]は多項式でない関数に対しても成り立ちます.
そのため,数学IIでは多項式の微分しか扱いませんが,数学IIIで多項式以外の微分をする際にもこの[導関数の基本性質]は成り立ちます.
[導関数の性質]は微分を求める時に非常に便利である.
具体例
それでは最後に具体例を考えましょう.
次の関数$f(x)$を微分せよ.
- $f(x)=x^{35}$
- $f(x)=4x^{2}+\pi x^{3}$
- $f(x)=x^{4}-3x^{2}+5$
(1) $f(x)=x^{35}$のとき,[多項式の微分]の$n=35$の場合から
となります.
(2) $f(x)=4x^{2}+\pi x^{3}$のとき,
となります.
(3) $f(x)=x^{4}-3 x^{2}+5$のとき,
となります.
(3)は3項ありますが,
と1歩ずつ考えれば,全部バラバラにできることが分かりますね.
微分は接線の傾きを求めるために考えたものでしたが,実は微分を用いると関数$f(x)$に対して$y=f(x)$のグラフの概形を描くことができます.
次の記事では,導関数を用いて関数の増減を調べる方法を説明します.