複素数は
$a+bi$($a$, $b$は実数,$i$は虚数単位)
として表される数のことをいい,$a$を実部,$b$を虚部というのでした.
この実部で虚部を用いる表し方は和や差を考える際には便利ですが,積や商は和や差ほど単純には計算できないのでした.
そこで,複素数の積や商の計算が簡単にできる複素数の表し方として極形式があります.
とくに$(a+bi)^n$など複素数の指数をこのまま計算しようとすると非常に面倒ですが,極形式の指数計算は非常に簡単で瞬時に答えが求まります.
この極形式の指数計算に関する定理をド・モアブルの定理といいます.ド・モアブルの定理の解説はのちの記事に回します.
この記事では
- 複素数の絶対値の復習
- 複素数の偏角
- 極形式の定義
- 極形式の具体例
を順に説明します.
「複素数」の一連の記事
絶対値と偏角
極形式を説明するには,絶対値と偏角をしっかり理解しておく必要があります.
絶対値
複素数の絶対値については前回の記事で説明しました.ここでは重要事項を確認しておきましょう.

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複素数$z$に対して,複素平面上の$0$と点$z$の距離を$z$の絶対値といい,$|z|$で表す.
また,次は絶対値に関する公式です.
複素数$z=a+bi$に対して,
が成り立つ.
実数$a$に対しては$|a|^2=a^2$が成り立ちますが,虚数$z$に対しては$|z|^2=z\overline{z}$であって$|z|^2$と$z^2$は異なることに注意してください.
偏角
次に複素数の偏角について説明します.
偏角という言葉は三角関数を学んだ際にも出てきましたが,複素数の偏角も考え方は同じです.

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複素平面上の原点$0$とは異なる点$\mrm{P}(z)$に対して,実軸の正方向からベクトル$\Ve{OP}$への有向角を(実軸正方向からの)複素数$z$の偏角という.ただし,反時計回りを正とする.
偏角は単なる角度とは異なり,「向きがある」ということに注意してください.
そのため,偏角は
- $360^{\circ}$を超えるもの
- 負のもの
も考えることができるわけですね.
極形式
それでは本題の極形式を説明します.
極形式の考え方
複素平面上に点$\mrm{P}(z)$をとったとき,どのように言えば点$\mrm{P}$の位置が相手に伝わるでしょうか?
1つは前回の記事からここまでで見たように,
- $z$の実部$a$
- $z$の虚部$b$
を言えば下図の位置に点$\mrm{P}(z)$があることが分かります.
他に
- 点$\mrm{P}(z)$と原点$0$の距離$r$ ($r=|z|$)
- 点$\mrm{P}(z)$の偏角$\theta$
を言うことによっても,下図の位置に点$\mrm{P}$があることが分かります.
このとき,
- $z$の実部は$r\cos{\theta}$
- $z$の虚部は$r\sin{\theta}$
なので,
となることが分かりますね.実はこの複素数の表し方を極形式と呼びます.
$r\geqq0$とし,$\theta$を実数とする.このとき,絶対値$r$,偏角$\theta$の複素数$z$は
と表され,この式を極形式という.
極形式の例
それでは,極形式の例を考えましょう.
次の複素数$z$を極形式に書き直し,複素平面上に絶対値,偏角とともに点$\mrm{P}(z)$を図示せよ.
- $z=\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $z=1-i$
- $z=-\sqrt{3}-3i$
問1
$z=\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$について,
なので,極形式に書き換えると,
となります.なお,このような絶対値が1の場合は,単純に
と書いても構いません.さて,
- $z$は絶対値が1
- 偏角が$\dfrac{\pi}{3}$
と分かったので下図のようになります.
問2
$z=1-i$について,
なので,極形式に書き換えると,
となります.
- $z$は絶対値が$\sqrt{2}$
- 偏角が$-\dfrac{\pi}{4}$
と分かったので下図のようになります.
問3
$z=-\sqrt{3}-3i$について,
なので,極形式に書き換えると,
となります.
- $z$は絶対値が$2\sqrt{3}$
- 偏角が$-\dfrac{2\pi}{3}$
と分かったので下図のようになります.
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