2021年度の京都大学の前期入試の理系数学を全問(問1〜問6)解説します.
各問を考え方から解説しています.
「大学入試数学解説」の一連の記事
第1問
問1 $xyz$空間の3点$\mrm{A}(1,0,0)$, $\mrm{B}(0,-1,0)$, $\mrm{C}(0,0,2)$を通る平面$\alpha$に関して点$\mrm{P}(1,1,1)$と対称な点$\mrm{Q}$の座標を求めよ.ただし,点$\mrm{Q}$が平面$\alpha$に関して$\mrm{P}$と対称であるとは,線分$\mrm{PQ}$の中点$\mrm{M}$が平面$\alpha$上にあり,直線$\mrm{PM}$が$\mrm{P}$から平面$\alpha$におろした垂線となることである.
問2 赤玉,白玉,青玉,黄玉が1個ずつ入った袋がある.よくかきまぜた後に袋から玉を1個取り出し,その玉の色を記録してから袋に戻す.この試行を繰り返すとき,$n$回目の試行で初めて赤玉が取り出されて4種類全ての色が記録済みとなる確率を求めよ.ただし,$n$は$n\geqq4$なる整数とする.
問1は空間ベクトルの問題,問2は確率の問題ですね.
2問とも難しくないので確実に得点したい問題です.
小問1の解答への筋道
小問1では空間上の平面と直線が垂直であることをどのように用いるかがポイントです.
問題の捉え方
3点$\mrm{A},\mrm{B},\mrm{C}$と点$\mrm{P}$は下図のようになっていますね.
平面は通る3点を決めるとひとつに決まるので,3点$\mrm{A},\mrm{B},\mrm{C}$を通る平面$\alpha$はひとつに決まります.
この平面$\alpha$に関して,点$\mrm{P}$と対称な点$\mrm{Q}$の座標を求めるのが問1ですね.
空間上の平面と直線が垂直であること
空間上の平面と直線が垂直であることの定義を確認しておきましょう.
空間上の平面$\alpha$と直線$\ell$が垂直である(または直交する)とは,直線$\ell$が平面$\alpha$上の全ての直線と垂直であることをいう.
定義は以上の通りですが,直線$\ell$が平面$\alpha$上の「全ての」直線と垂直であることを確かめなくても,平面$\alpha$上の「2本の」直線と垂直であれば平面$\alpha$と直線$\ell$は垂直となるのでした.
すなわち,次が成り立ちます.
空間上の平面$\alpha$と直線$\ell$について,次は同値である.
- 平面$\alpha$と直線$\ell$は垂直である.
- 平面$\alpha$上の2直線が直線$\ell$と垂直である.
よって,問1では平面$\alpha$上の2直線として直線$\mrm{AB}$と直線$\mrm{AC}$を考えれば,
- 平面$\alpha$と直線$\mrm{PM}$が垂直であること
- 直線$\mrm{AB}$と直線$\mrm{AC}$がともに直線$\mrm{PM}$が垂直
は同値となりますね.
本問を解く上では同値までは必要ありませんが,知識としては持っておきたいところです.
$xyz$空間上の平面の方程式
$xyz$平面上の一般の平面の方程式は
の形で表されます.
このことは$xy$平面上の一般の直線の方程式が$ax+by+c=0$と表されることの類推で理解できますね.
問1では平面$\alpha$が通る3点$\mrm{A},\mrm{B},\mrm{C}$の座標が分かっているので,代入すれば平面の方程式は連立方程式を解くことで得られます.
とくに平面と各軸の交点の座標が分かっていれば,以下のように簡単に求まることは知っておいて良いでしょう.
実数$a,b,c$はいずれも0でないとする.$xyz$空間上の3点$(a,0,0)$, $(0,b,0)$, $(0,0,c)$を通る平面$\alpha$の方程式は
である.
小問1の解答例
平面$\alpha$が3点$\mrm{A}(1,0,0)$, $\mrm{B}(0,-1,0)$, $\mrm{C}(0,0,2)$を通ることから,平面$\alpha$の方程式は
である.(ここで$(x,y,z)=(1,1,1)$はこの方程式を満たさないから,点$\mrm{P}$は平面$\alpha$上に存在しない).
点$\mrm{M}$が平面$\alpha$上にあることから点$\mrm{M}$の座標は$(s,t,2-2s+2t)$ ($s$, $t$は実数)と表せるので,
である.また,$\alpha\perp\mrm{PM}$より平面$\alpha$上の直線$\mrm{AB}$と直線$\mrm{AC}$はともに直線$\mrm{PM}$と垂直だから
となる.よって,$xyz$空間の原点を$\mrm{O}$とすると
だから,$\mrm{Q}$の座標は$\bra{\dfrac{13}{9},\dfrac{5}{9},\dfrac{11}{9}}$である.
小問2の解答への筋道
問2のポイントは事象の独立性と事象の分割です.
事象の独立性
2つの試行が互いの結果に影響を及ぼさないとき,それらの試行は独立であるといいますね.独立な試行に関しては次の定理が重要です.
試行$S,T$が独立であるとき,試行$S$の任意の事象$A$と試行$T$の任意の事象$B$に対して,
が成り立つ.
問2では$(n-1)$回目までの試行と$n$回目の試行を分けて考えることになり,それらの試行は独立であることを利用します.
事象の分割
事象$A,B$に対して
が成り立ちます.これは$P(A)+P(B)$は$P(A\cup B)$をダブルカウントしているため,$P(A\cup B)$を引くことで$P(A\cup B)$の確率が得られるというわけですね.
これは3つ以上の事象の場合でも同様ですね.
小問2の解答例
問2(再掲) 赤玉,白玉,青玉,黄玉が1個ずつ入った袋がある.よくかきまぜた後に袋から玉を1個取り出し,その玉の色を記録してから袋に戻す.この試行を繰り返すとき,$n$回目の試行で初めて赤玉が取り出されて4種類全ての色が記録済みとなる確率を求めよ.ただし,$n$は$n\geqq4$なる整数とする.
$(n-1)$回目までの試行について
- 「白玉,青玉,黄玉のみ取り出す事象」を$A$
- 「白玉,青玉のみ取り出す事象」を$B$
- 「白玉,黄玉のみ取り出す事象」を$C$
- 「青玉,黄玉のみ取り出す事象」を$D$
とし,「事象$A$が起こり,事象$B$,事象$C$,事象$D$がいずれも起こらない事象」を$X$とする.また,$n$回目の試行で「赤玉を取り出す事象」を$Y$とすると,$n\ge4$より求める確率は$P(X\cap Y)$である.
いま,$(n-1)$回目までの試行と$n$回目の試行は独立なので$P(X\cap Y)=P(X)P(Y)$であり,いま$P(Y)=\dfrac{1}{4}$だから$P(X)$を求める.
事象$B$,事象$C$,事象$D$はいずれも事象$A$の部分なので
である.また,$P(B\cap C\cap D)=0$だから
である.
ここで,
だから,求める確率は
である.
第2問
曲線$y=\dfrac{1}{2}(x^{2}+1)$上の点$\mrm{P}$における接線は$x$軸と交わるとし,その交点を$\mrm{Q}$とおく.線分$\mrm{PQ}$の長さを$L$とするとき,$L$が取りうる値の最小値を求めよ.
「接線」や「最小値」ということから,第1感は微分法ですね.
解答への筋道
素直に立式して計算しても解けますが,あることに気付けば見通しよく計算することができる問題です.
問題の捉え方
$xy$平面上の曲線$y=\dfrac{1}{2}(x^{2}+1)$は下に凸な放物線で$x$軸に関して$y>0$側にあり,この上を点$\mrm{P}$が動きます.
点$\mrm{P}$が$x=0$の近くにあるとき,接線はほとんど$x$軸に平行なので,$x$軸との交点$\mrm{Q}$は点$\mrm{P}$とかなり離れています.
この状態から点$\mrm{P}$の$x$座標の絶対値を大きくしていくと,しばらくは線分$\mrm{PQ}$は短くなっていきます.
しかし,点$\mrm{P}$の$x$座標の絶対値を大きくしすぎると,線分$\mrm{PQ}$が長くなっていきますね.
このように点$\mrm{P}$の$x$座標が$0$に近すぎても大きすぎても線分$\mrm{PQ}$は長くなってしまうので,点$\mrm{P}$がどこにあれば線分$\mrm{PQ}$が最も短くなるかを問われているわけですね.
解答の流れ
接線が絡む問題では接点の$x$座標を$t$などとおくのは定石ですから,本問では点$\mrm{P}$の$x$座標を$t$とおきましょう.このとき,線分$\mrm{PQ}$の長さの2乗$L^2$は
となり,これを最小にすればよいわけですが,これを単に$t$で微分するのでは(解けますが)筋がよくありません.
この$L^2$の式では$t$は全て$t^2$でかたまりとなっているので,少なくとも$s=t^2$などとおきたいところです.
もう少し工夫するなら,$t^2+1$に注目して$t=\tan{\theta}$とおけば$t^2+1=\dfrac{1}{\cos^2{\theta}}$となるので
となります.これより$\sin{\theta}(1-\sin^2{\theta})$を最大にすればよいことになり,より計算の見通しが良くなります.
解答例
点$\mrm{P}$の座標を$\bra{t,\dfrac{1}{2}(t^2+1)}$ ($t\geqq0$)とする.$x$軸に関して対称だから$t\geqq0$で考えてよい.
$y=\dfrac{1}{2}(x^{2}+1)$を$x$で微分すると
だから,点$\mrm{P}$での接線の方程式は
である.よって,点$\mrm{P}$での接線が$x$軸と交わるのは$t\neq0$のときである.また,点$\mrm{Q}$の$x$座標は
だから
となる.ここで$t=\tan{\theta}$ $\bra{0<\theta<\dfrac{\pi}{2}}$, $\sin{\theta}=s$とおくと
となる.よって,$f(s)=s(1-s^2)$とおくと$f(s)$が最大となるとき$L$が最小になる.
$0<s<1$に注意すると,$f'(s)=1-3s^2$より$f'(s)=0\iff s=\frac{1}{\sqrt{3}}$なので,$0<s<1$での$f(s)$の増減表は
となる.以上より,$L$の最小値は
である.
第3問
無限級数$\dsum_{n=0}^{\infty}\bra{\dfrac{1}{2}}^{n}\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の和を求めよ.
一見するとただの級数(極限)の問題ですが,$\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の部分は$n$について周期12になっているので,素朴に12で割った余りで場合分けをすることで計算しようとすると大変です.
解答への筋道
本問は$\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$から複素数の極形式が連想できるかが鍵となります.
ド・モアブルの定理
$\bra{\dfrac{1}{2}}^{n}\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の形を見て,ド・モアブルの定理を思い付きたいところです.つまり,
とおくと,ド・モアブルの定理より任意の整数$n$に対して
が成り立ちます.
よって,無限級数$\dsum_{n=0}^{\infty}\bra{\dfrac{1}{2}}^{n}\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の第$(k+1)$項目までの部分和は
の実部に一致するので,この和の実部の極限$k\to\infty$を考えればよいですね.
等比数列の和
等比数列の和$1+r+r^2+\dots+r^{k}$は,$r\neq1$なら因数分解
の両辺を$1-r$で割ることで
と得られます.この議論は$r\neq1$であれば複素数でも問題なくできますね.
いま$|\alpha|=\dfrac{1}{2}$より$\alpha\neq1$なので,さきほどの部分和$(*)$もこの公式から計算できますね.
解答例
(再掲)無限級数$\dsum_{n=0}^{\infty}\bra{\dfrac{1}{2}}^{n}\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の和を求めよ.
$i$を虚数単位とし,$\alpha=\dfrac{1}{2}\bra{\cos{\dfrac{\pi}{6}}+i\sin{\dfrac{\pi}{6}}}$とおく.ド・モアブルの定理より,任意の整数$n$に対して
だから,問の無限級数は
となる.ただし,複素数$z$に対して$\operatorname{Re}z$で$z$の実部を表す.
$\dsum_{n=0}^{k}\alpha^n$は初項$1$,公比$\alpha$の等比数列の和で,$|\alpha|=\dfrac{1}{2}$だから$\alpha\neq1$なので
である.分母が実数なので,$\dsum_{n=0}^{k}\alpha^n$の実部は
である.
任意の実数$\theta$に対して$|\cos{\theta}|\leqq1$だから,この最後の2項は極限$k\to\infty$を考えると$0$に収束するから
となる.
第4問
曲線$y=\log{(1+\cos{x})}$の$0\leqq x\leqq\dfrac{\pi}{2}$の部分の長さを求めよ.
曲線の長さを求める問題なので積分法を使いましょう.
解答への筋道
曲線$y=f(x)$の長さの公式が分かっていればあとは単純な計算なので,確実に得点したい問題です.
問題の捉え方
$\cos{x}$は$0\leqq x\leqq\dfrac{\pi}{2}$で単調減少なので,$\log{(1+\cos{x})}$も$0\leqq x\leqq\dfrac{\pi}{2}$で単調減少となります.
$x=0$で$y=\log{2}$,$x=\dfrac{\pi}{2}$で$y=0$なので,実際にグラフを描くと下図のようになります.
本問ではこのグラフの長さを求められているわけですね.
曲線の長さ
曲線の長さを求めるには次の公式が重要です.
この公式は「曲線を細かく刻んで足し合わせる」という考え方から導出します.
十分小さい幅$\varDelta{x}$を考えて,$x$から$x+\varDelta x$での曲線を考えます.
この部分の曲線の長さ$\varDelta{\ell}$は2点$(x,f(x))$, $(x+\varDelta{x},f(x+\varDelta{x}))$を結ぶ線分で近似できるので,三平方の定理より
となります.よって,両辺を$\varDelta{x}$で割って$\varDelta{x}\to0$を考えると
が成り立つと考えられるので,これを$a\leqq x\leqq b$の連続総和を考えて,$a\leqq x\leqq b$での曲線の長さ
が得られるわけですね.
$\dfrac{1}{\cos{\theta}}$の積分
本問では最終的に$\dfrac{1}{\cos{\theta}}$の積分を計算することになりますが,これは
と考えて$t=\sin{\theta}$とおけば,部分分数分解と併せてさらに
と計算できますね($C$は積分定数).
実は$\dfrac{1}{\cos{\theta}}$, $\dfrac{1}{\sin{\theta}}$の積分は教科書にも載っており,確実に計算できるようになっておきたい積分です.
また,一般に$\dint f(\sin{\theta})\cos{\theta}\,d\theta$の形の積分は$t=\sin{\theta}$とおくと$\dint f(t)\,dt$となることは当たり前にしておきたいところです.
慣れれば$t=\sin{\theta}$と置換しなくても積分できるようになります(以下の解答例参照).
解答例
第5問
$xy$平面において,2点$\mrm{B}(-\sqrt{3},-1)$, $\mrm{C}(\sqrt{3},-1)$に対し,点$\mrm{A}$は次の条件($*$)を満たすとする.
($*$) $\ang{BAC}=\dfrac{\pi}{3}$かつ点Aの$y$座標は正.
次の各問に答えよ.
- $\tri{ABC}$の外心の座標を求めよ.
- 点$\mrm{A}$が条件($*$)を満たしながら動くとき,$\tri{ABC}$の垂心の軌跡を求めよ.
$xy$平面上の座標が与えられており,(2)では奇跡を求めるので図形と方程式の分野の問題ですね.
解答への筋道
(1)も(2)も計算しなくても答えが分かりますが,きちんと答案を書こうとすると少し書き方が難しいかもしれません.
問題の捉え方
3点$\mrm{A},\mrm{B},\mrm{C}$は下図のようになっていますね.
この問題を解く上では,問題の条件($*$)を満たす点$\mrm{A}$はひとつではないということが大切ですね.
とくに(2)では点$\mrm{A}$を動かしたときに,$\tri{ABC}$の垂心がどのように動くかを問われているわけですね.
円周角の定理とその逆
角度が一定であるときに考えたいのが円周角の定理の逆です.
平面において,2点$\mrm{X},\mrm{Y}$と直線$\mrm{XY}$に関して同じ側にある2点$\mrm{P},\mrm{Q}$が
を満たすとき,4点$\mrm{X},\mrm{Y},\mrm{P},\mrm{Q}$は同一円周上に存在する.
本問では2点$\mrm{B},\mrm{C}$が決まっていて,$\ang{BAC}=\dfrac{\pi}{3}$が固定されているので,円周角の定理の逆から点$\mrm{A}$はある円の周上を動くことになりますね.
このことから,点$\mrm{A}$を動かしても3点$\mrm{A},\mrm{B},\mrm{C}$の外接円は動かないので,$\tri{ABC}$の外心は点$\mrm{A}$の位置によって変化しませんね.
軌跡
垂心の軌跡は「垂心の座標を$(X,Y)$とおいて$X$と$Y$の関係式を求める」というオーソドックスな方法で求めることができます.
ただし,軌跡で重要なことは「軌跡は動かないところは除外して答えなければならない」というところです.
つまり,(2)は「点$(X,Y)$が垂心であるための必要十分条件を求めよ」ということであることに注意してください.
具体的に(2)では垂心$(X,Y)$は$Y=\sqrt{4-X^2}-2$という関係式が得られますが,これは$-2$を移項して2乗して得られる$(Y+2)^2=4-X^2$と必要十分ではありません.
このように,軌跡の問題では得られた関係式が元の条件と必要十分性であるかを確認することは大切です.
解答例
(1) 点$\mrm{A}$は$\ang{BAC}=\dfrac{\pi}{3}$を満たして動くから,円周角の定理の逆より$\tri{ABC}$の外接円は点$\mrm{A}$の位置によらず変化しない.この外接円を円$D$とする.
点$\mrm{X}$を$(\sqrt{3},1)$とすると,$\mrm{BC}:\mrm{CX}=2\sqrt{3}:2=\sqrt{3}:1$かつ$\ang{BCX}=\dfrac{\pi}{2}$なので,$\ang{BXC}=\dfrac{\pi}{3}$である.
よって,点$\mrm{X}$は円$D$上に存在する.3点$\mrm{B},\mrm{C},\mrm{X}$はいずれも原点との距離が2なので,円$D$は原点中心,半径2の円である.
したがって,$\tri{ABC}$の外心は円$D$の中心$(0,0)$である.
(2) $\tri{ABC}$の垂心を$\mrm{H}(X,Y)$とおく.(1)より点$\mrm{A}$の座標は$(a,\sqrt{4-a^2})$ ($-2<a<2$)と表せる.
辺$\mrm{BC}$は$x$軸に平行だから,垂心$\mrm{H}$の$x$座標は点$\mrm{A}$の$x$座標に一致して$X=a$である.
$\Ve{AC}=\pmat{\sqrt{3}-a\\-1-\sqrt{4-a^2}}$だから,ベクトル$\pmat{1+\sqrt{4-a^2}\\\sqrt{3}-a}$は辺$\mrm{AC}$に垂直なので
なる実数$k$が存在する.この等式の第1成分から
である.また,第2成分から
である.よって,$-2<a<2$と併せると$-2<Y$であり
である.以上より,Hは中心$(0,-2)$,半径$2$の上半円$x^2+(y+2)^2=4$ ($-2<y$)上を動く.
逆に,この曲線上の任意の点に対して今の議論を辿ることができ,$\tri{ABC}$の垂心となることが分かるから,この上半円が求めるHの軌跡である.
(2)の補足
実は(2)の答えはほとんど計算なしに分かります.垂心$\mrm{H}$は$\tri{ABC}$の内部にあるときは,各頂点$\mrm{B},\mrm{C}$から対辺に下ろした垂線の足を$\mrm{B}’,\mrm{C}’$とします.
このとき,四角形$\mrm{AC’HB’}$の内角の和が$180^\circ$であることと$\ang{AC’H}=\ang{AB’H}=90^\circ$から,点$\mrm{H}$の位置が変わっても常に$\ang{BHC}=120^\circ$です.
よって,円周角の定理の逆より点$\mrm{H}$はある円周上に存在します.
また円周角の定理より$\ang{BOC}=120^\circ$なので$\mrm{H}$は原点$\mrm{O}$を通り,点$\mrm{H}$は$\tri{OBC}$の外接円上を動くことが分かります.
この考え方答案できっちり書くには場合分けや書き方が面倒なので,実際の答案は上の解答例のように書くのが無難でしょう.
第6問
次の各問に答えよ.
問1 $n$を$2$以上の整数とする.$3^{n}-2^{n}$が素数ならば$n$も素数であることを示せ.
問2 $a$を$1$より大きい定数とする.微分可能な関数$f(x)$が$f(a)=af(1)$を満たすとき,曲線$y=f(x)$の接線で原点$(0,0)$を通るものが存在することを示せ.
問1は整数の問題,問2は微分法の問題ですね.
小問1の解答への筋道
小問1は$x^n-y^n$の因数分解をどのように利用するかがポイントです.
問題の捉え方
小問1は
- $n=2$なら$3^n-2^n=5$は素数 → 確かにこのとき$n=2$は素数
- $n=3$なら$3^n-2^n=19$は素数 → 確かにこのとき$n=3$は素数
- $n=4$なら$3^n-2^n=65$は非素数 → どうでもよい
- $n=5$なら$3^n-2^n=211$は素数 → 確かにこのとき$n=5$は素数
- $n=6$なら$3^n-2^n=665$は非素数 → どうでもよい
- $n=7$なら$3^n-2^n=2059(=29\times71)$は非素数 → どうでもよい
というように,$n=2,3,\dots$と$3^n-2^n$を考えていき,$3^n-2^n$が素数のときに$n$も素数であることを示す問題ですね.
$x^n-y^n$の因数分解
2以上の整数$n$に対して$x^n-y^n$は
と因数分解できます.これは因数分解公式
- $x^2-y^2=(x-y)(x+y)$
- $x^3-y^3=(x-y)(x^2+xy+y^2)$
からの類推でも理解できますね.
$x^n-y^n$が必ず$x-y$を因数にもつことは,$x=y$のとき$x^n-y^n=0$となることから因数定理より分かりますね.
小問1では「$3^n-2^n$が素数」という条件は扱いにくいので,背理法か対偶を示す方法が考えられます.
正の整数$n$が素数でなければ$n=ab$ ($a$, $b$は2以上の整数)と表せるので,$3^{ab}-2^{ab}=(3^a)^b-(2^a)^b$と考えれば$x^b-y^b$の因数分解が使えますね.
小問1の解答例
問1(再掲) $n$を$2$以上の整数とする.$3^{n}-2^{n}$が素数ならば$n$も素数であることを示せ.
対偶を示す.すなわち,$n$が素数でないとし,$3^{n}-2^{n}$が素数でないことを示す.
$n$が素数でなければ,$n=ab$($a$, $b$は2以上の整数)と表せるから
となる.$3^{a}-2^{a}$と$(3^{a})^{b-1}+(3^{a})^{b-2}(2^{a})+\dots+(2^{a})^{b-1}$はいずれも整数である.いま,
であり,
だから,$3^{n}-2^{n}$が2以上の整数の積で表せることになり素数でない.
小問2の解答への筋道
存在証明なので平均値の定理や中間値の定理は思い浮かんでも,どう使えるか分からなかった人は多かったかもしれません.
問題の捉え方
小問2の$f(a)=af(1)$という条件は$1:f(1)=a:f(a)$と同値なので,曲線$y=f(x)$上の2点$(1,f(1))$, $(a,f(a))$を結ぶ直線が原点を通りますね.
微分可能な関数$f(x)$に対して,このような$a$が存在するとき,必ず$y=f(x)$上のどこかの点での接線が原点を通ることを示せ,という問題ですね.
曲線$y=f(x)$の$x=t$での接線は
ですから,問2では$tf(t)-f'(t)=0$となる実数$t$が存在することを示せば良いですね.
平均値の定理
「同じ形の差」があれば平均値の定理を思い付きたいところです.
[平均値の定理] $a\leqq x\leqq b$で微分可能な関数$f(x)$に対して,$a\leqq c\leqq b$かつ
を満たす実数$c$が存在する.
「同じ形の差」というのは$f(b)-f(a)$の部分のことです.
平均値の定理の等式$(*)$は分母を払った
の形で用いることもよくあります.
本問で与えられている$f(a)=af(1)$は$\dfrac{f(a)}{a}-\dfrac{f(1)}{1}=0$と変形でき,左辺が「同じ形の差」となりますね.
よって,$g(x)=\dfrac{f(x)}{x}$という関数$g$を考えて,平均値の定理を使いたくなるところです.
小問2の解答例
問2(再掲) $a$を$1$より大きい定数とする.微分可能な関数$f(x)$が$f(a)=af(1)$を満たすとき,曲線$y=f(x)$の接線で原点$(0,0)$を通るものが存在することを示せ.
$g(x)=\dfrac{f(x)}{x}$とおく.$f(x)$は微分可能だから$g(x)$も微分可能なので,平均値の定理より$1<c<a$かつ
を満たす実数$c$が存在する.いま,
だから,$cf'(c)-f(c)=0$が成り立つ.よって,曲線$y=f(x)$の$x=c$での接線の方程式は
となって原点を通る.
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